日本の雇用管理の3種の神器といえば、終身雇用・年功序列・企業内組合。
本書は、従来の日本型雇用を否定し、欧米型雇用を礼賛する本では、ありません。
人事のイロハから、人事の戦略まで、幅広く網羅され、人事に携わる全ての人に、一見の価値ある良書です。
人事制度を学びたい人には、ジョブ型雇用や新卒一括採用のような欧米型と日本型の雇用システムの本質的な違いが理解できます。
人材育成に悩んでいる人には、個社の特性に応じた人材育成システム構築の勘所がわかります。
人事戦略を立てなければならない人には、日本型雇用システムの問題提起が参考になるでしょう。
今回は、本書を読んで、考えたことやわかったことを、3つの対比で紹介します。
1.仕事が変わる日本型と仕事が変わらない欧米型
日本は職能給で、欧米は職務給。
日本はメンバーシップ型で、欧米はジョブ型。
働き方改革や雇用流動化が叫ばれる昨今、欧米のジョブ型を検討する会社も多いでしょう。
「ジョブ型雇用には、職務記述書が必要だ。」
「職務記述書で、あらゆるポストの職務を明確にしていこう。」
よくある流れです。
ですが、本書で紹介されている外資系企業の職務記述書が驚きです。
“毎日起こり得る現場での問題を解決する”(プロジェクトマネジャー)
”他の人事や一般管理の仕事も任された場合行う”(人事スタッフ)
安心するほど、曖昧です。
職務記述書=ジョブ型雇用ではないことが、わかりました。
本書では、ジョブ型雇用を”ポスト限定雇用”と定義しています。
「ポストの数が決まっている。」
厳しい現実です。
ポストに人が当てはまっているので、そのポストの仕事がなくなれば仕事を失う。
仕事を勝手に変えられることもないが、行き来するルートも用意されていない。
ジョブ型雇用の第一歩は、組織図の「人」を「ポスト」にすることなのだと、わかりました。
2.期待させる日本型と期待できない欧米型
年功序列に終身雇用。
一部の大企業の話です。
そもそも、子会社もない中小企業で、社員をローテーションさせる仕組みなどありません。
大企業で役員まで上り詰めるような一部の人以外は、ほぼ、キャリアのどこかでルートが変わります。
ローテーション人事では、新しい職場の仕事をわかる必要はありません。
「新入社員の気持ちで一から勉強します。」
組織の長となる人の挨拶でも、定番でしょう。
給料は年功序列なので、年齢を重ねるごとに、少しずつあがります。
仕事の習熟度や習練度など、関係ありません。
それが、年功序列であり、終身雇用です。
もちろん、大企業であっても、いつまでも続かない(と、いうより、続けない)でしょう。
ローテーション人事の恩恵を受けるのは、大企業に新卒で入れた人。
最も恩恵のない人が、非正規で働く人です。
国際的に、日本の非正規労働者の労働時間が長い一方で報酬が著しく低いことの理由を、本書は一言で片づけます。
”お父さんの雇用を守るため”
納得の答えです。
ですが、そのお父さんもいまや、半分以上は課長になれず、リストラにもあう時代。
将来を期待させることで働かせる仕組みは限界です。
欧米型雇用では、一部のエリートを除き、初めから労働者は期待などしていないことが、わかります。
欧米労働者の残業しない理由が、痛快です。
”お腹が空くから家に帰る”
お客様にも会社にも縛られない意思の強さを感じます。
3.ワーク・ライフ・バランスの幻想と現実
「ワーク・ライフ・バランスで、仕事の成果も追及しよう。」
幻想です。
ワーク・ライフ・バランスの選択は、キャリアの選択と同意です。
本書で紹介されている超有名経営者の一節が、現実です。
“出世したいと思うなら、育休は2か月以上取るな”(マリッサ・メイヤー)
“ワーク・ライフ・バランスはない。あるのはワーク・ライフ・チョイスだ。”(ジャック・ウェルチ)
労働者はキャリアを選択し、会社はその選択を尊重し、配慮する。
今後の人事の組み立ての肝(きも)です。
以上
written by yondara-wakaru