日本年金機構では、算定(定時決定)や月変(随時改定)時の取扱いを「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集【PDF】 」として、まとめています。
令和3年の算定事務に際し、在宅勤務・テレワークにおける交通費及び在宅勤務手当の取扱いとして、新たに3つの事例が追録されました。
ポイントは、労働の対償なのか、実費弁償なのかという点です。
今回は、追録された3つの事例を確認し、算定や月変時の社会保険報酬加算や固定的賃金変動の取扱いについて、確認することとします。
1.通勤交通費の社保報酬額加算の取扱い
労働契約上の労務提供地が自宅か事業所かに応じて、取扱いが異なります。
1-1.労務の提供地が自宅の場合
自宅が労務提供地である場合は、一時的な出社による交通費は、実費弁償と認められ、社会保険報酬額への加算は不要です。
実務運用ポイントは、以下の2点です。
●労務提供地を自宅とするための自宅勤務の申請(届出)をさせること。
→自宅勤務の申請(届出)を従業員にさせることで、労務提供地の変更を明確化しましょう。
●一時的に出社した日の通勤交通費は経費精算させること。
→給与で支給しないことで、そもそも、社会保険報酬額から除外する手間がなくなります。
1-2.労務の提供地が事業所の場合
事業所が労務提供地であれば、通勤手当となりますので、社会保険報酬額への加算は、当然に必要となります。
2.在宅勤務手当の社保報酬額加算の取扱い
在宅勤務手当が、労働の対償として支払われる性質か否かにより、取扱いが異なります。
2-1.在宅勤務手当が労働の対償に当たるようなものである場合
在宅勤務手当を支給している大半の会社がこちらの取扱いでしょう。
事例集では「事業主が被保険者に対して毎月5000円を渡し切りで支給するもの」と例示しています。
使用状況により支給額が可変したり、事業主への返還義務が生ずる性質のものではありませんので、実費弁償とは認められず、社会保険報酬額への加算が必要です。
2-2.在宅勤務手当が実費弁償に当たるようなものである場合
実費弁償の性質に該当するものを、給与で支給すると、社会保険報酬額から除外することが必要となり、煩雑です。
自宅勤務者の通勤交通費と同様に、経費精算の仕組みで精算する運用が、よいでしょう。
3.通勤交通費・在宅勤務手当の月変の取扱い
在宅勤務・テレワークの導入に伴い、通勤交通費が実費弁償の取扱いとなること(事例1-1)、新たに実費弁償に該当しない在宅勤務手当を支給すること(事例2-1)等は、固定的賃金の変動に該当し、月変の処理が必要となります。
従前等級と2等級差、算定対象期間の各月に一定数の支払基礎日数の確保という他要件が満たされる場合は、固定的賃金の変動月の4か月目から標準報酬月額を改定することとなります。
3-1.同時に複数の固定的賃金の増減要因が発生した場合
固定的賃金の総額が、増額であれば増額改定、減額であれば減額改定の対象となります。
一般的には、勤務地が自宅となり通勤交通費の支給がなくなれば減額改定、在宅勤務手当の支給が開始されれば増額改定となるでしょう。
3-2.変動手当の創設と廃止が同時に発生した場合
変動手当の創設と廃止の場合は固定的賃金のように金額比較が困難なため、3か月の平均報酬月額が従前等級と2等級以上の差があれば、増額改定・減額改定のいずれかに該当すれば、月変の対象とすることとなります。
3-3.一つの手当に実費弁償分とそれ以外の部分がある場合
実費弁償分と実費弁償分以外が混在して支給されている場合で、実費弁償分以外の金額に変動があっても、それは稼働状況による変動であり、固定的賃金の変動には該当しませんので、月変処理そのものが不要です。
最後にまとめ。
・労務提供地が自宅で、一時的に出社した日のみ支給する通勤交通費は、実費弁償と認められ、社会保険報酬額に含める必要はない。
・一律で支給している在宅勤務手当は、実費弁償とは認められないので、社会保険報酬額に含めることが必要となる。
・労務提供地変更による通勤交通費の支給方法の変更や、一律支給の在宅勤務手当の開始は、固定的賃金の変動に該当するので、月変処理が必要となる。
以上
written by sharoshi-tustomu