賃金台帳とは、労働者ごとに賃金額や労働時間等を記載した台帳です。
労働基準法第108条で使用者の調製義務が定められています。
調「整」ではなく、調「製」です。
調製義務違反は、30万円以下の罰金に科せられることがあります(労基法第120条)。
賃金台帳は、雇用調整助成金を申請する際の添付書類としても提出します。
今回は、①賃金台帳の保存期間にかかる法改正内容、②賃金台帳の記載事項、③雇用調整助成金申請時の休業手当の記載方法の3つについて確認することとします。
1.賃金台帳の保存期間と起算日【法改正アリ】
賃金台帳の法定保存期間は3年間(労基法第109条)、起算日は労働者の最後の賃金について記入した日(労基則第56条)とされてきました。
突然ですが、法改正情報です。
令和2年4月1日より、賃金請求権の消滅時効期間が5年間に延長されています。
🔎 未払賃金が請求できる期間などが延長されます【PDF】|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000617974.pdf
賃金請求権の消滅時効が延長されたことに伴い、賃金台帳の保存期間も「3年間」から「5年間」に延長されました。
しかしながら、本規定には経過措置(労基法附則第143条)が設けられており、賃金台帳の保存期間は当分の間は「3年間」となっています。
「当分の間」の期間ですが、検討規定(改正法附則第3条)で「施行後5年を経過した場合において、この法律による改正後の規定について、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」としていますので、少なくともこれから5年間の変更はないでしょう。
保存期間の起算日に関しては、改正前の労基則では「当該記録の完結の日」であることが規定されていましたが、改正省令では「当該記録に係る賃金の支払期日が当該記録の完結の日等より遅い場合には当該支払期日が起算日」となることが明確化されました。
以下の「賃金台帳の保存にかかる法律・省令条文の新旧対照表(令和2年4月1日)」を確認し、変更点と追加事項をおさえましょう。
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2.賃金台帳の記載事項
使用者は、労働者各人別に賃金台帳に、8つの事項を記載することが必要です。
賃金台帳の調製義務が規定された労働基準法第108条を確認しましょう。
―労働基準法第108条―(賃金台帳)
第108条 使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
具体的な記載事項となる「その他厚生労働省令で定める事項」は、労働基準法施行規則第54条に定められています。
❶氏名
・社員管理にために付番している社員番号をもって替えることができます。
❷性別
・男女の性別を記載します。
❸賃金計算期間
・賃金計算期間の基礎となった期間を記載します。
例えば、当月15日締当月払の会社の4月給与であれば3月16日~4月15日の期間を記載します。
賞与も同様に、例えば、夏季賞与の計算対象期間が前年10月~当年3月の会社の2020年6月賞与であれば、2019年10月1日~2020年3月31日の期間を記載します。
❹労働日数
・実際に労働に従事した日数を記載します。
・休日労働日数も含みます。
・年次有給休暇の日数は、実際に労働に従事した日数とみなして労働日数に含めて記載しますが、その日数は別掲しカッコ書きをすることとされています(昭和23年11月2日基収第3815号)。
❺労働時間数
・実際に労働した労働時間数を記載します。
・残業時間数も含みます。
・年次有給休暇を取得した日の時間数は、所定労働時間数を労働時間数に含めて記載しますが、その時間は別掲しカッコ書きをすることとされています(昭和23年11月2日基収第3815号)。
・管理監督者については記載不要です(労基則第54条第5項)。
❻時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数
・時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数を記載します。
・時間外労働や休日労働は労基法所定の意味を指しますが、就業規則において1日の所定労働時間を8時間未満としている場合の法内残業時間や、4週4日の法定休日を超える所定休日の労働時間を、時間外労働時間数・休日労働時間数に記載することは差し支えありません。
・休日労働が通常の労働日の所定労働時間を超えた場合は時間外労働時間数には含めず、休日労働時間数の欄に記入します。
・時間外労働や休日労働が深夜にわたって行われた場合は、深夜の部分の時間数を深夜労働時間数の欄にも重複して記載します。
・管理監督者については時間外労働・休日労働の時間数の記載は不要ですが、深夜労働の時間数の記載は必要です(労基則第54条第5項)。
❼基本給、手当その他賃金の種類毎にその額
・月給等の基本給や扶養手当等の手当項目をその種類ごとにその額を記載します。
・宿日直勤務については手当欄に宿直又は日直手当として記載し、各々その回数をカッコ書きで金額欄に附記することとされています(昭和23年11月2日基収第3815号)。
・住宅の無償供与等の現物給与がある場合はその評価額を記載します(労基則第54条第3項)。
❽控除項目とその額
・社会保険や税金の法定控除項目と賃金控除協定等で定めた任意控除項目を記載します。
賃金台帳の様式は、常用労働者用(様式第20号)と日雇労働者用(様式第21号)の2種類が定められています(労基則第55条)。
一般的な常用労働者の賃金台帳の記載例は、以下のリンクを参照ください。
🔎 賃金台帳(記載例)【PDF】|福岡労働局
3.賃金台帳の休業手当記載要件
休業手当を支給した場合は、休業手当は明確に区分して記載することが通達で求められています。
―昭和22年12月26日基発第573号―○休業手当等の賃金台帳の記入方法
問 法第26条に基づく休業手当、法第39条に基づく年次有給休暇手当を支払った場合、賃金台帳のどの欄に記入すべきか。
答 手当欄に「休業手当」、「年次有給休暇手当」等として記入する。
新型コロナウイルス感染症の影響により、雇用調整助成金の申請を検討している会社も多いでしょう。
賃金台帳は、雇用調整助成金の申請の際、「休業手当・賃金の実績に関する書類」として提出します。
「休業手当」の支払実績の確認資料となりますので、賃金台帳は以下の要件を満たしていなければなりません。
雇用調整助成金の申請にあたっても、通達の原則の通り、休業手当は通常の賃金とは明確に区分することが必要です。
以下のように、通常の支給額を記載するとともに、休業手当と休業控除の2つの項目を記載します。
新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特別措置では、以下の点は要件が緩和されています。
・賃金台帳の写しにかえ、給与明細の写しでも可。
・休業手当等の額が賃金の額と同額である場合には、休業手当等の額を区分しないことで可。
今回のまとめ。
・賃金台帳の保存期間は令和2年4月1日より5年間に改正されたが、当分の間は、改正前の3年間で問題ない。
・賃金台帳には法令で定められた8つの事項を記載する。
・休業手当を支給した場合は、賃金台帳には他の賃金とは明確に区分して記載することが必要。
以上
written by sharoshi-tsutomu