2025年金制度改正法成立。年金財政安定化と労働力確保と自助努力。

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2025年6月13日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が参議院本会議で可決・成立しました。

この法律は、多様化する働き方やライフスタイルに対応し、年金制度の持続可能性と公平性を高めるとともに、高齢期における生活の安定を図ることを目的としています。

今回は、2025年金制度改正法の主な5つのポイントについて、確認します。

1. 被用者保険(厚生年金・健康保険)の適用拡大

短時間労働者(パート労働者など)の被用者保険の適用要件が改正されます。

これまで企業の規模に応じて段階的に適用されてきた短時間労働者(パート・アルバイトなど)への被用者保険の適用について、賃金要件を撤廃し、さらに企業規模要件も段階的に撤廃(2027年10月1日から2035年10月1日まで)されます。

これにより、より多くの中小企業の短時間労働者が被用者保険に加入することとなり、年金増額などのメリットを受けることができます。

また、個人事業所の被用者保険の適用事業所の適用業種も拡大されます。

これまで常時5人以上の者を使用する事業所については、法律で定める17業種に限り、適用されていましたが、2029年10月からは非適用業種も常時5人以上を使用する場合には、被用者保険の適用事業所となります(ただし、経過措置として、施行時に存在する事業所は当面期限を定めず適用除外)。

なお、短時間労働者への被用者保険の適用拡大に伴う保険料負担の増加緩和のため、新たな負担軽減措置が導入されます。

主な内容は、短時間労働者の保険料負担割合の変更と事業主への支援です。

これにより、適用拡大の対象となる比較的小規模な企業で働く短時間労働者に対し、社会保険料による手取り減少の緩和で、就業調整を減らし、被用者保険の持続可能性の向上につなげることを目的としています。

2. 在職老齢年金制度の支給停止基準額の引き上げ

一定の収入がある厚生年金受給権者を対象とする在職老齢年金制度において、年金が支給停止となる収入基準額が50万円(2024年度価格)から62万円に引き上げられます。

これにより、働く高齢者が働きながらより年金を受給しやすい制度とすることで、現役レベルの収入がある者には、年金制度の支え手に回ってもらうことが期待できます。

3. 遺族年金の見直し(男女差解消・子の支給要件見直し)

遺族厚生年金の男女差が解消されます。

18歳未満の子がいない20~50代の配偶者については、原則5年の有期給付とされます(低所得など配慮が必要な方は最長65歳まで所得に応じた給付の継続制度有り)。

一方で、これまで対象外だった60歳未満の男性も新たに支給対象となります。

その他にも、有期給付加算の新設(有期給付期間中の年金額が増額)、収入要件の廃止(年収850万円未満の収入要件)、中高齢寡婦加算の段階的廃止など、男女間の不均衡を是正し、多様な家族構成に対応するための措置が講じられます。

また、子に支給する遺族基礎年金については、遺族基礎年金の受給権を有さない父母と生計を同じくすることによる支給停止に係る規定が見直されます。

これまでの遺族基礎年金は、遺族基礎年金の受給権を持たない父母(例:離婚した親)と同居している子には支給停止されていました。

今回の改正では、子の生活安定のため、子の選択によらない状況で支給停止される不均衡を解消し、子に年金を支給できるよう見直されます。

これにより、多様な家庭環境にある子のセーフティネットが強化されます。

4. 標準報酬月額の上限引き上げ(65万円→75万円)

負担能力に応じた負担を求め、将来の給付を充実する観点から、厚生年金保険の標準報酬月額の上限が65万円から75万円に段階的に引き上げられます。

具体的なスケジュールは、以下の通りです。

第1段階:2027年9月 から上限が68万円へ

第2段階:2028年9月 から上限が71万円へ

第3段階:2029年9月 から上限が75万円へ

これにより、新しい「標準報酬月額」に該当者は保険料は増加しますが将来の年金額も増加し、また、厚生年金制度の財政が改善により低年金者も含めた厚生年金全体の給付水準の底上げが期待されます。

5. 私的年金制度の拡充(iDeCoの加入可能年齢引き上げ)

iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入可能年齢の上限が引き上げられます(施行日は公布から3年以内の政令で定める日)。

これまで原則65歳未満だったiDeCoの加入可能年齢が、70歳未満に引き上げられます。

これにより、60歳以降も働く意欲のある方や、老後資金の準備を遅れて始めた方も、より長くiDeCoを活用して資産形成を行うことが可能となり、老後の所得確保の選択肢が広がることで、生涯現役社会における多様な働き方を後押しします。

また、企業年金の運用情報の「見える化」が推進されます。

厚生労働省が、各企業年金(確定給付企業年金、確定拠出年金など)の運用状況に関する情報を集約し、公表する仕組みが導入されます。

これにより、加入者や企業は、自身の加入している企業年金や他社の企業年金の運用状況を比較検討しやすくなります。

運用の透明性が高まることで、加入者自身の年金資産への関心を高め、より適切な老後資金形成を促す狙いがあります。


最後に3つの観点で法改正内容まとめ。

・年金財政安定化の観点

今回の年金法改正は、短時間労働者への厚生年金適用拡大や標準報酬月額上限引き上げ等により、保険料収入を確保し、年金財政の安定化に寄与します。在職老齢年金見直しも働き続ける高齢者の増加を促し、中長期的な財源確保の一助となるでしょう。これにより、少子高齢化が進む中でも制度の持続可能性を高めます。

・労働力確保の観点

短時間労働者への厚生年金適用拡大は、社会保険加入による安心感を提供し、非正規労働者のモチベーション向上と定着を促します。事業主への保険料助成は企業の負担を軽減し、雇用促進に繋がります。これにより、多様な働き方に対応しつつ、労働力人口の確保と質の向上に貢献します。

・自助努力の観点

iDeCoの加入可能年齢引き上げは、より長く自己資金を形成できる機会を提供し、国民の自助努力による老後資金準備を後押しします。企業年金情報の「見える化」は、自身の資産形成への意識を高め、より主体的な運用を促します。これらにより、公的年金に加えて個人の自助努力を強化し、豊かな老後生活の実現を支援します。

以上

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