期間の定めのない雇用の場合、労働者はいつでも退職を申し出ることが可能です。
民法第627条第1項では、退職の申し出の日から二週間を経過することによって雇用を終了することができる旨、規定されています。
ですが、一般的に就業規則で民法の規定以上の期間を設けていることが、多いでしょう。
使用者としては、退職者の業務引継ぎや後任探しの前に、辞められたら困ります。
使用者にとって悩ましいことが、退職者から年次有給休暇の残日数の取得を請求された場合、時季変更権を行使することができないことです。
一方で、通常は禁止されている年次有給休暇の買い取りは、退職の場合は、例外的に認められます。
今回は、退職者の年次有給休暇の消化と買い取りの取扱いについて、確認します。
1.退職者の年休請求は拒否することができない
労働者が請求した時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合、他の時季にこれを与えることができることを条件に、使用者には「時季変更権」が認められます。(労基法第39条第5項)
ポイントは、他の時季にこれを与えることができることが条件であることです。
退職の場合は、年休の権利は退職により残余の権利が消滅するため、変更すべき他の日がありませんから、使用者は時季変更権を行使する余地がありません。
🔎退職間際の労働者から、残った年休を退職日までの勤務日に充てたいといわれたら、拒むことはできませんか?|東京労働局
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/yokuaru_goshitsumon/nenjiyukyu/q3.html
結果、使用者は、労働者の請求通りに、年休を与えることが必要となります。
引継ぎや後任探しのため、退職日を遅らせてもらえることが可能であれば、問題はありません。
話し合いでの解決が困難な場合、年休買い取りという金銭解決の検討も必要でしょう。
2.退職者の年休残を買い取りすることはできる
年次有給休暇の買い取りは、原則、認められません。
年次有給休暇は、労働者の心身の休養を図ることが趣旨のため「休む」ことが原則です。
ただし、例外があります。
2年間の時効により消滅するときや、退職により消滅するときは、残日数に応じて調整的・恩恵的に金銭を給付することは、法違反には該当しません。
年次有給休暇取得中の賃金は、①平均賃金、②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金、③健康保険の標準報酬日額(標準報酬月額の30分の1に相当する額)――の3つの中から就業規則等に規定することとなっています。(労働基準法第39条第9項)
多くの会社で採用されているのは、②の通常の賃金です。
ただし、退職にあたり年次有給休暇を買い取りする額は、会社(使用者)が任意に決定することが可能です。
対象者の通常の賃金を基礎とすることでも、対象者の賃金にかかわらず一定額とすることでも、差し支えありません。
年次有給休暇の買い取り額は、退職しなかったとしたならば支払われなかったものですので、退職所得に該当します。
🔎 退職所得となるもの|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2725.htm
なお、退職する労働者から、年次有給休暇の買い取りを請求されても、使用者に応じる義務はありません。
最後にまとめ。
・退職予定者からの年次有給休暇の請求を使用者は拒否することができない。
・退職予定者の年次有給休暇の残日数を使用者が買い取りすることはできる。
・使用者は年次有給休暇を日頃から計画的に取得させることが大事となる。
以上
written by syaroshi-tsutomu