2018年7月6日「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が公布され、2019年4月1日より順次施行されています。
罰則付きの時間外労働の上限規制は、大企業では2019年4月1日から適用されます(中小企業は2020年4月から適用。一部事業は2024年4月まで適用猶予有り。)。
違反すると「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に科されるおそれがあります。
これまで36協定の特別条項で臨時的な特別の事情がある場合は、法規制を受けることなく限度時間を定めることができ、実質的に上限規制はありませんでした。
今回は、単月・複数月・年間・回数の時間外労働にかかる4つの規制について、労働基準法の根拠規定を確認し理解を深めることとします。
(補足)上限規制は、2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)以後の期間のみを定めた36協定に対して適用されます。2019年3月31日を含む期間について定めた36協定については、その協定の初日から1年間は引き続き有効となり、上限規制は適用されません。
1.単月規制(時間外労働+休日労働)
時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満であること。
時間外労働と休日労働あわせて100時間未満であることが必要です。
時間外労働とは「法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超えた労働時間のこと」をいい、休日労働とは「法定休日の労働時間」のことをいいます。
1日8時間未満の事業場における法定内残業は、本基準より除外されます。
単月規制は労働基準法第36条第6項に規定されています。
使用者は、第一項の協定で定めるところによつて労働時間を延長して労働させ、又は休日において労働させる場合であつても、次の各号に掲げる時間について、当該各号に定める要件を満たすものとしなければならない。
~労働基準法第36条第6項第二号~
一 坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、一日について労働時間を延長して労働させた時間 二時間を超えないこと。
二 一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間 百時間未満であること。
三 対象期間の初日から一箇月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の一箇月、二箇月、三箇月、四箇月及び五箇月の期間を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の一箇月当たりの平均時間 八十時間を超えないこと。
単月100時間は過労死ラインも超える時間です。
厚生労働省は「脳・心臓. 疾患の認定基準」(平成13年12月12日付 基発第1063号)において、脳・心臓疾患の発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとしています。
🔎 脳・心臓疾患の労災補償について|厚生労働省
2.複数月規制(時間外労働+休日労働)
時間外労働と休日労働の合計が「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1か月当たり80時間以内であること。
複数月規制も単月規制と同様、過労死ラインと同基準です。
休日労働も含めた時間が基準となります。
複数月規制も労働基準法第36条第6項に規定されています。
使用者は、第一項の協定で定めるところによつて労働時間を延長して労働させ、又は休日において労働させる場合であつても、次の各号に掲げる時間について、当該各号に定める要件を満たすものとしなければならない。
~労働基準法第36条第6項第三号~
一 坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、一日について労働時間を延長して労働させた時間 二時間を超えないこと。
二 一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間 百時間未満であること。
三 対象期間の初日から一箇月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の一箇月、二箇月、三箇月、四箇月及び五箇月の期間を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の一箇月当たりの平均時間 八十時間を超えないこと。
2019年4月から安全衛生法における面接指導の対象も、1か月当たり100時間超から1か月当たり80時間超へ見直しされました(安衛則第52条の2第1項)。
また、面接指導の対象となる労働者に対しては労働時間の状況に関する情報を通知することも事業者に義務付けられています(安衛則第52条の2)。
3.年間規制(時間外労働のみ)
時間外労働が年720時間以内であること。
年間規制には休日労働は含みません。時間外労働のみが対象となります。
年間規制は労働基準法第36条第5項に規定されています。
第一項の協定においては、第二項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)並びに一年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め七百二十時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において、第一項の協定に、併せて第二項第二号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が一箇月について四十五時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間)を超えることができる月数(一年について六箇月以内に限る。)を定めなければならない。
~労働基準法第36条第5項~
時間外労働の月平均が60時間を超えている労働者は、毎月、留意が必要です。
4.回数規制(時間外労働のみ)
時間外労働が月45時間を超えるのは年間で6回までであること。
4つ目の規制は、時間ではなく、回数です。
回数規制は時間外労働のみが算出基準です。休日労働は含みません。
なお、1年単位の変形労働時間制の場合は1か月42時間が基準となります。
回数規制は労働基準法第36条第5項に規定されています。
第一項の協定においては、第二項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)並びに一年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め七百二十時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において、第一項の協定に、併せて第二項第二号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が一箇月について四十五時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間)を超えることができる月数(一年について六箇月以内に限る。)を定めなければならない。
~労働基準法第36条第5項~
時間外労働が月45時間を超える場合は、36協定の特別条項で定めた「限度時間を超えて労働させる場合における手続」を忘れずに実施しましょう(労基則第17条)。
🔎 時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)|東京労働局
最後にまとめ。
・時間外労働の法律上の上限は、原則として、月45時間・年360時間。
・36協定に特別条項がある場合は、原則の法律上の上限を超えることが可能。
・特別条項がある場合も、単月(100時間未満)・複数月(80時間以内)・年間(720時間以内)・回数(月45時間超は6回まで)の上限がある。
以上
written by syaroshi-tsutomu