均等均衡待遇って何?罰則はあるの?3分でわかる同一労働同一賃金

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033_均等均衡待遇って何?罰則はあるの?3分でわかる同一労働同一賃金
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2020年4月、同一労働同一賃金にかかる改正法が施行されます。

同一労働同一賃金の目的は、正規社員と非正規者社員(パート・契約・派遣社員)の不合理な待遇差を解消すること。

厚生労働省は、同一労働同一賃金ガイドラインで問題となる例・問題とならない例を具体的に例示しています。

今回は、同一労働同一賃金のポイントとなる均等待遇と均衡待遇について、条文規定とガイドラインを参照し理解することとします。

第1章.改正法(労働者派遣法とパートタイム・有期雇用労働法)

同一労働同一賃金にかかる改正法は2つあります。

一つ目は、「労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)」です。

改正法は、2020年4月1日より施行されます。

労働者派遣法では、「派遣先」の正規社員と派遣社員の不合理な待遇差を禁止しています。

二つ目は、「パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)」です。

従来の「パートタイム労働法」に有期雇用契約者も対象範囲に加え、大企業は2020年4月1日、中小企業は2021年4月1日より施行されます。

「パートタイム・有期雇用労働法」では、「同一企業内」の正規社員と非正規社員の不合理な待遇差を禁止しています。

次の章以降では、「パートタイム・有期雇用労働法」の条文規定を参照し均等待遇と均衡待遇の意味、ガイドライン例示の問題とならない例を参照し正規社員と非正規社員の合理的な待遇差について確認することとします。

第2章.均等待遇とは?

均等とは、二つ以上の物事の間に全く差がないこと。

均等待遇とは、「仕事の内容・責任の重さ・転勤や配転の有無が同じであれば、同じ待遇にしなさい。」ということです。

厚生労働省のガイドラインによる説明は以下です。

~厚生労働省ガイドライン~
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならないこととされている。

キーワードは、差別的な取扱いの禁止です。

条文を確認します。

~パートタイム・有期雇用労働法~
(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
第9条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第11条第1項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない

差別的取扱いの禁止=均等待遇と覚えましょう。

事業主は、①職務内容(業務の内容及び責任の程度)、②職務内容・配置の変更の範囲が同じ場合、待遇について同じ取扱いをする必要があります。

第3章.均衡待遇とは?

均衡とは、二つ以上の物事の間でつり合い(バランス)が取れていること。

均衡待遇とは、「仕事の内容・責任の重さ・転勤や配転の有無に差があるのであれば、差に応じた合理的な待遇差にしなさい。」ということです。

厚生労働省のガイドラインによる説明は以下です。

~厚生労働省ガイドライン~
事業主は、短時間・有期雇用労働者の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないこととされている。

キーワードは、まさに、不合理な待遇差の禁止です。

条文を確認します。

~パートタイム・有期雇用労働法~
(不合理な待遇の禁止)
第8条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない

不合理な待遇差の禁止=均衡待遇と覚えましょう。

事業主は、①職務内容(業務の内容及び責任の程度)、②職務内容・配置の変更の範囲、③その他の事業の違いに応じた範囲内で、待遇を決定する必要があります。

なお、今回の法施行に際し、パートタイム・有期雇用労働法の第14条に事業主の説明義務規定が追加されています。

事業主は非正規社員が求めた場合は、正規社員と非正規社員の待遇差の内容や理由について説明することが必要となります。

厚生労働省ガイドラインの「問題とならない例」を確認し、合理的な待遇差の例示について、いくつか確認しましょう。

(問題とならない例①)
A社においては、定期的に職務の内容及び勤務地の変更がある通常の労働者の総合職であるXは、管理職となるためのキャリアコースの一環として、新卒採用後の数年間、店舗等において、職務の内容及び配置に変更のない短時間労働者であるYの助言を受けながら、Yと同様の定型的な業務に従事している。A社はXに対し、キャリアコースの一環として従事させている定型的な業務における能力又は経験に応じることなく、Yに比べ基本給を高く支給している。

⇒ 若年総合職の現時点の業務は幹部候補生としてのキャリア形成が目的であり、同様の業務に従事にしている短時間労働者と待遇差があることは、問題とならない。

(問題とならない例②)
基本給の一部について、労働者の業績又は成果に応じて支給しているA社において、所定労働時間が通常の労働者の半分の短時間労働者であるXに対し、その販売実績が通常の労働者に設定されている販売目標の半分の数値に達した場合には、通常の労働者が販売目標を達成した場合の半分を支給している。

⇒ 支給総額は異なるが、正規社員にも短時間労働者にも業績に応じた金額を支給しており、金額の算出となる係数が正規社員と短時間労働者で異なるものではないので、問題とならない。

(問題とならない例③)
A社においては、通常の労働者であるXは、生産効率及び品質の目標値に対する責任を負っており、当該目標値を達成していない場合、待遇上の不利益を課されている。その一方で、通常の労働者であるYや、有期雇用労働者であるZは、生産効率及び品質の目標値に対する責任を負っておらず、当該目標値を達成していない場合にも、待遇上の不利益を課されていない。A社は、Xに対しては、賞与を支給しているが、YやZに対しては、待遇上の不利益を課していないこととの見合いの範囲内で、賞与を支給していない。

⇒ 賞与額に差を設けているのは責任範囲の差による合理的なものであり、問題とならない。

その他の問題となる例・問題とならない例については、厚生労働省のガイドラインで確認しましょう。

🔎 同一労働同一賃金ガイドライン|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html

第4章.罰則はあるの?

同一労働同一賃金違反にかかる罰則規定はありません。

罰則はありませんが、法違反の場合は、損害賠償請求を提起されることも考えられます。

同一労働同一賃金の法施行の契機となった2つの訴訟事案は確認しておくとよいでしょう。

ーー訴訟事案1ーー

🔎 ハマキョウレックス事件|裁判所

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87784

有期雇用の契約社員と無期雇用の正社員の賃金格差については、個々の賃金項目の支給趣旨を個別に考慮し、不合理と認められるものであるか否かの評価をすべきとされました。

賃金項目ごとの判断内容としては以下の通り。

< 不合理と認められない >

🏠 住宅手当(住宅に要する費用を補助する趣旨)

転居を伴う配転は正社員にのみ予定されていることから、正社員の住居費は契約社員と比較して多額となる得るため。

< 不合理と認められる >

⏲ 皆勤手当(運転手の一定数確保のため皆勤を奨励する趣旨)

出勤する者を確保することの必要性は、両者の間に差異が生ずるものではない。

🚚 無事故手当(優良ドライバーの育成や安全輸送により顧客の信頼を獲得する趣旨)

安全運転及び事故防止の必要性は、両者の間に差異が生ずるものではない。

👷 作業手当(特定の作業を行ったことによる対価)

作業そのものを金銭的に評価して支給される性質の賃金であり、行った作業に対する金銭的評価が両者の間で異なるものではない。

🍽 給食手当(食事に係る費用を補助する趣旨)

勤務時間中に食事を取ることの必要性は、勤務形態にも違いがないのであれば、相違を設けることは不合理と評価できる。

🚋 通勤手当(通勤に要する交通費を補塡する趣旨)

労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではない。

ーー訴訟事案2ーー

🔎 長澤運輸事件|裁判所

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87785

定年再雇用者であることは労働契約法第20条の「その他の事情」に該当するものであり、賃金格差が不合理と認められるものであるか否かの評価にあたっては、考慮されるべき事項であるとされた。

< 不合理と認められない >

💴 能率給と職務給が支給されないこと

主に以下の3点を総合考慮し、不合理と認められないと評価。

①定年再雇用された嘱託社員の基本賃金は定年再雇用時の賃金より高く設定されていること。

②正社員の能率給のかわりに嘱託社員には歩合給が支給されており支給係数は歩合給の方が2~3倍高く設定されていること。

③組合との団体交渉を経て、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間、嘱託社員に対して2万円の調整給を支給していること。

🏠 住宅手当と 👪 家族手当が支給されないこと

正社員は嘱託社員と異なり、幅広い世代の労働者が存在し得るところ、そのような正社員について住宅費及び家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由がある。

💺 役付手当が支給されないこと

役付者であることに対して支給される性質のものであり、役付者でない嘱託社員に支給されないことは不合理とは認められない。

💸 賞与が支給されないこと

主に以下の3点を総合考慮し、不合理と認められないと評価。

①賞与は、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得るものであり、長期雇用が前提でない嘱託社員に支給しないという判断もあり得る。

②嘱託社員は、定年退職に当たり退職金の支給を受けるほか、老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、その報酬比例部分の支給が開始されるまでの間は調整給の支給を受けることも予定されている。

③嘱託社員の賃金(年収)は定年退職前の79%程度となることが想定されるものであり、収入の安定に配慮しながらも、歩合給の係数を正社員より高くするなど労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫した内容になっている。

< 不合理と認められる >

⏲ 精勤手当が支給されないこと

出勤することを奨励する趣旨で支給されるものであり、嘱託社員と正社員との職務の内容が同一である以上、両者の間で、その皆勤を奨励する必要性に相違はない。

🌃 超勤手当が低いこと

精勤手当が支給されていないことが不合理と認められるので、嘱託社員の超勤手当(時間外手当)の基礎額には精勤手当も含めて支給することが必要。


最後にまとめ。

・同一労働同一賃金の目的は、正規社員と非正規社員の不合理な待遇差を解消すること。

・均等待遇とは、仕事の内容や責任の範囲等が同じであれば、同じ待遇にしなさいということ。

・均衡待遇とは、仕事の内容や責任の範囲等に差があるのであれば、差に応じた合理的な待遇差にしなさいということ。

・罰則規定はないが、不合理な待遇差があれば事業主は損害賠償を提起されることがある。

以上

written by sharoshi-tutomu

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