退職する外国人が本国へ帰国する場合の所得税・住民税及び社会保険の取扱い

1001_社労士つとむの実務と法令
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厚生労働省の外国人雇用状況届出によると令和4年10月末現在の外国人労働者は182万人。

平成19年の外国人届出義務化以降、過去最高を更新しました。

外国人雇用事業所も約30万事業所となり、こちらも過去最高を更新しています。

今回は、外国人が退職に伴い本国へ帰国する(日本から出国する)場合の実務をご案内します。

1.必要情報を揃えよう

はじめに、必要な情報を揃えましょう。

最低限必要な情報は、①「退職日」と②「帰国日」です。

①「退職日」

社会保険関係の資格喪失日の確定と、日本国内での勤務に対する所得(国内源泉所得)の確定に使用します。

🔎 国内源泉所得の範囲(平成29年分以降)|国税庁

②「帰国日」

税務上の居住者、非居住者の判断に使用します。

市町村に提出する国外転出届の異動年月日が、原則的な帰国日(出国日)です。

非居住者となる日は、帰国日(出国日)の翌日です。

🔎 居住者と非居住者の区分|国税庁

2.最終給与の取扱い

前提として、月給者(税額表甲欄・社保加入)、当月末日締、当月25日支給とします。

2-1.所得税の取扱い

ポイントは、給与支給日に居住者なのか、非居住者なのかという点です。

具体的に以下の4つの事例で取扱いを確認します。

▼事例1

「退職日」が月末で、「帰国日」が支給日前の場合

→→→→/20帰国→→→/25支給→→月末退職

⇒非居住者課税(20.42%=所得税+復興所得税)

計算期間の全てが国内源泉所得に該当し、支給日は非居住者ですので、非居住者課税となります。

▼事例2

「退職日」が月末で、「帰国日」が支給日以後の場合

→→→→→→→/25支給→→月末退職・帰国

⇒通常課税(居住者と同様、甲欄で計算)

支給日は居住者ですので、通常課税となります。

▼事例3

「退職日」が月末以外(月中)で、「帰国日」が支給日前の場合

→→→→/20退職・帰国→→→/25支給→→

⇒非居住者課税(20.42%=所得税+復興所得税)

退職日までの給与が25日に支給日された場合であれば、退職日までの給与は全てが国内源泉所得に該当することとなりますので、非居住者課税となります。

なお、居住者の出国が海外転勤に伴うものである場合は、25日支給の給与には、国内勤務と海外勤務のいずれの期間の給与も存在することとなりますので、以下の「給与等の計算期間の中途で非居住者となった者の給与等」に該当し、全額を国外源泉所得とみなし、所得税は課税されません。

(給与等の計算期間の中途で非居住者となった者の給与等)
給与等の計算期間の中途において居住者から非居住者となった者に支払うその非居住者となった日以後に支給期の到来する当該計算期間の給与等のうち、当該計算期間が1月以下であるものについては、その給与等の全額がその者の国内において行った勤務に対応するものである場合を除き、その総額を国内源泉所得に該当しないものとして差し支えない。

~所得税基本通達212-5~

また、基本給と残業手当の計算期間が異なる場合で、基本給が給与等の計算期間の中途で非居住者となった者の給与等の特例に該当するときは、残業手当は全て国内勤務期間に該当するときであっても、残業手当を国内源泉所得とすることは必要ないとされています。

🔎 給与の計算期間の中途で非居住者となった者に支給する超過勤務手当(基本給との計算期間が異なる場合)|国税庁

▼事例4

「退職日」が月末以外(月中)で、「帰国日」が支給日以後の場合

→→→→/20退職→→→/25支給→→月末帰国

⇒通常課税(居住者と同様、甲欄で計算)

支給日は居住者ですので、通常課税となります。

2-2.住民税の取扱い

当該年度分の住民税は原則「一括徴収」で、未到来の年度分の住民税は「普通徴収」となります。

未到来の年度分の住民税を納付するため、別途、納税管理人の届出を行います(納税義務者である外国人労働者は国外で納税通知書を受け取ることができないため)。

住民税の賦課期日は1月1日となりますので、例えば令和2年5月に退職し帰国した場合、令和2年度分(令和2年6月~令和3年5月)は課税され、令和3年度分は令和3年1月1日現在非居住者であれば、課税されません。

💡ワンポイント
前述の令和2年1月1日現在に居住者であった場合も、入国から帰国までの滞在期間が1年未満である場合は、課税されません。入国後1年以内に出国(旅行にすぎないと認められる場合を除く)した場合、個人の住民税の納税義務は、賦課期日に遡って生じなかったものとする取扱いがあるためです(外国人等に対する個人の住民税の取扱いについて・・・昭和41年5月31日・自治府第54号)。詳細は、外国人労働者が居住している市区町村へ問合せを行うとよいでしょう。

外国人が帰国後の住民税について会社負担とする契約の場合、帰国した外国人の国内源泉所得として非居住者課税が必要となります。

支給額が住民税+所得税となるようグロスアップ計算を実施します。

🔎 退職して帰国した外国人の住民税の負担|国税庁

2-3.社会保険の取扱い

通常退職と同様です。「退職日」を基準として考えます。

退職日が月末であれば、資格喪失日は退職日の翌日となりますので、当月分の保険料(健康保険・厚生年金保険)まで負担義務が生じます。

雇用保険料についても、加入期間中の労働に対する賃金について、負担します。

全額が事業主負担となる労災保険料も同様の基準です。

💡ワンポイント
在留資格が「企業内転勤」等の場合、日本の事業所での勤務期間が限定されており、所定の勤務期間経過後は、海外の事業所へ戻ることが明確であるため、雇用保険は未加入としている場合が多いかと思います。雇用保険未加入の場合でも、ハローワークへの手続きとして、『離職に係る外国人雇用状況届出書』の提出は必要です。

3.出国時年調の取扱い

外国人が帰国(日本から出国)する場合は年末調整が必要です。海外に出国する日までに実施します。

出国時年調のポイントは、いつまでの給与(賞与)を、年末調整の対象とするかという点です。

▼支払金額の対象となるもの

⇒出国する日までに支払の確定した給与(賞与)が対象

▼所得控除の対象となるもの

⇒出国する日までに支払われた社会保険料や生命保険料等が対象

最終給与の支給日に居住者である場合は、最終月の給与も含め年末調整を行います。

最終給与の支給日が非居住者である場合は、最終給与の支給月の前月までの給与・賞与により年末調整を行うこととなります。

居住者が海外勤務となった場合の所得税精算について国税庁のページも確認しましょう。

🔎 海外出向と所得税額の精算|国税庁

4.退職金の取扱い

退職金(退職所得)については、所得税と住民税の取扱いを確認します。

前提として、全額が国内源泉所得(=国内勤務に対する支払)の場合とします。

4-1.所得税の取扱い

「退職日(=退職所得の収入金額の収入すべき時期)」に居住者か非居住者かで取扱いが異なります。

退職金支給日は退職日後に支給されることが多いと思いますが、あくまでも基準は「退職日(=退職所得の収入金額の収入すべき時期)」です

非居住者判断は給与は支給日、退職金は退職日で異なりますので、留意しましょう。

▼事例1「退職日」に居住者の場合

⇒通常通り、『退職所得の受給に関する申告書』を外国人労働者に提出させ、課税計算します。

🔎 退職所得の受給に関する申告|国税庁

▼事例2「退職日」に非居住者の場合

⇒非居住者課税20.42%です。

前提として、事例1と事例2はいずれも全額が国内勤務に伴うものであるにもかかわらず、居住者と非居住者で税額が大きく異なることが想定されます。

そのため、非居住者と居住者と税負担にかかる調整を行うことを目的として「退職所得の選択課税制度」が設けられています。

事例2の場合は、翌年1月1日以降、納税管理人を通し退職所得の選択課税制度による還付申告を行うことが可能です。

🔎 退職所得の選択課税の記載例【PDF】|国税庁

4-2.住民税の取扱い

「退職日」に居住者か、非居住者か。が基準です。

▼事例1「退職日」に居住者の場合

⇒通常通りの課税計算です。

▼事例2「退職日」に非居住者の場合

⇒課税されません。非(不)課税です。

退職所得の住民税は、退職年の1月1日現在の居住地で課税されるのが、原則です。

例外として、翌年1月1日現在に非居住者であると推定される場合、納税義務者(=会社)は課税しなくて差し仕えないとされています。

ただし、外国人労働者が予定に反し、翌年1月1日現在に居住者となった時は、課税義務が外国人労働者に生じます。

5.脱退一時金の取扱い

帰国した外国人が厚生年金に加入していた場合は「脱退一時金」を受給できる場合があります。

脱退一時金の受給要件は、以下の7つの要件があります。

①日本国籍を有していない
②公的年金制度の被保険者でない
③厚生年金保険の加入期間が6月以上ある
④老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていない
⑤障害年金等の年金の受給権を満たしたことがない
⑥日本国内に住所を有していない
⑦被保険者資格喪失から2年以上経過していない

申請期限は、出国後2年を経過するまでに行うことが必要です。

🔎 短期在留外国人の脱退一時金|日本年金機構

支給額は、おおよそ、厚生年金加入期間(国内勤務期間)に本人(被保険者)が負担した保険料が還付されます。

還付額計算に用いる月数の上限は、従来は最長36か月(3年)でしたが、令和3年4月より(同年4月以降に年金の加入期間がある場合)、最長60月(5年)に引き上げられました。

支給額のうち、約8割は本人に外貨振込され、約2割は所得税が源泉徴収されます。

ただし、源泉徴収された所得税は、「退職所得の選択課税」と同様、納税管理人を通し、還付申告を行うことで還付されます。

なお、社会保障協定の締結国の場合、脱退一時金の申請により、本国における年金加入期間の計算上も期間通算の対象外となりますので、申請は個々の状況を勘案し申請しましょう。

🔎 社会保障協定|日本年金機構


最後にまとめ。

・出国日がいつかが、すごく大事。

・退職金の非居住者課税には還付申告の制度がある。

・住民税は1月1日が最重要日。

・脱退一時金は非居住者となってから請求する。

・役員は一般の労働者とは取扱いが異なるので留意。

以上

written by sharoshi-tsutomu

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