随時改定になる?ならない?固定賃金変動・2等級差・支払基礎日数の随時改定3要件

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随時改定とは、固定的賃金の変動により被保険者の標準報酬月額に著しく高低を生じた場合に、定時決定を待たずして、その著しく高低を生じた月の翌月から、標準報酬月額を改定することです。

健康保険法第43条、厚生年金保険法第23条に規定されています。

随時改定の対象となるには、以下の3つの要件「全て」に該当することが必要です。

固定的賃金の変動又は給与体系の変更があること

固定的賃金の変動月から3か月の報酬が従前の等級と2等級以上の差があること

3か月とも支払基礎日数が17日以上あること

今回は、随時改定の3つの要件の原則とポイントについて、事例や図解により確認します。

1.固定的賃金の変動又は給与体系の変更があること

1-1.固定的賃金の変動とは

固定的賃金とは、基本給や時給単価のように「支給額や支給率が決まっているもの」をいいます。

稼働時間により増減する残業代や実績に応じて増減する業績給のように「稼働や実績で支給されるもの」は固定的賃金には該当しません。

例えば、定期昇給により基本給の額が変更された、昇格により役職手当の額が変更されたというのは固定的賃金の変動に該当する典型例です。

固定的賃金の変動のポイントは、単価や支給率の変更も固定的賃金の変動に該当する点です。

具体的な事例としては、以下のような場合です。

●マイカー通勤者に支給される1リットルあたりのガソリン単価が変更された。

●獲得実績により支給される業績給の歩合率が変更となった。

●現物給与の標準価額が告示により改正された。

つぎに、固定的賃金の変動に該当しない例を確認します。

稼働時間により支給される残業手当が、固定的賃金の変動に該当しないのは典型例です。

以下のような場合も、継続的性質がなく稼働や実績による変動として取り扱われますので、固定的賃金の変動には該当しません。

●懲戒処分の減給制裁により基本給が減額された。

●休職により通勤手当の支給が停止された。

●給与減額を伴う選択制確定拠出年金の拠出額を変更した。

1-2.給与体系の変更とは

給与体系とは、基準内賃金と基準外賃金のように、給与をどのような要素で構成するか示したものです。

日本では、労働者の身分に応じて給与体系がわかれているのが一般的です。

給与体系の変更には、以下のような事例が該当します。

●正社員に登用され、時給制から月給制に変更となった。

●役員に登用され、基本給の代わりに役員報酬の支給が開始された。

●非固定的賃金が新設された。

固定的賃金の変動の取扱いは、以下のサイトの「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」で詳細を確認しましょう。

🔎 定時決定(算定基礎届)|日本年金機構

2.固定的賃金の変動月から3か月の報酬が従前の等級と2等級以上の差があること

2-1.固定的賃金の変動月とは

固定的賃金の変動月とは、随時改定の契機となる固定的賃金変動の「起算月」のことです。

起算月のポイントは、実際に支給が反映された月」と「1か月分が完全に確保された月の2点です。

「実際に支給が反映された月」を、遡って昇降給が発生した場合で考えてみましょう。

例えば、6月給与で4月適用の昇降給の差額調整が行われた場合、昇降給の額が「実際に支給が反映された」のは6月となりますので、起算月は6月となります。

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つぎは、「1か月分が完全に確保された月」を、給与計算期間の中途の適用により日割計算をした場合で考えてみましょう。

例えば、当月1日~末日の給与を当月25日に支給する会社で、6月16日から新たに役職手当を支給したような場合、6月給与は日割計算で支給され、7月給与で「はじめて」満額分が支給されたこととなりますので、「1か月分が完全に確保された月」は7月となり、7月が起算月となります。

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2-2.2等級以上の変動とは

2等級以上の変動とは、昇給のあったときは2等級以上高くなること(増額改定)、降給があったときは2等級以上低くなること(減額改定)を意味しています。

2等級以上の変動のポイントは、増額改定減額改定の2種類にわかれるという点です。

固定的賃金は上がったが非固定的賃金は減少し等級が2等級以上下がった場合や、固定的賃金は下がったが非固定的賃金は増加し等級が2等級以上上がった場合は、随時改定の対象とはなりません。

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また、2つ以上の固定的賃金が変動した場合は、新たな変動要因となる固定的賃金の「合計額」が増額であるか減額であるかにより、増額改定なのか減額改定なのか判断することとなります。

なお、標準報酬月額等級表の上限又は下限にわたる等級変更の場合は、2等級以上の変動がなくても例外的に随時改定の対象となりますので、留意しましょう。

3.3か月とも支払基礎日数が17日以上あること

3-1.支払基礎日数とは

支払基礎日数とは、「その月の給与支払の基礎となった日数」です。

月給者であれば暦日数、日給者や時給者であれば出勤日数(有休含む)が原則の日数です。

支払基礎日数は、随時改定の算定対象期間となる3か月の全ての月が17日以上であることが必要です。

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支払基礎日数の詳細の取扱いは、以下のページを参照ください。

3-2.短時間労働者の特例とは

短時間労働者とは、厚生年金保険・健康保険の適用対象者が拡大により、週所定労働時間が20時間以上等の所定の要件を満たす労働者のことです。

🔎 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構

短時間労働者の場合の随時改定の支払基礎日数は、「17日」以上ではなく、「11日」以上で要件を満たすこととなりますので留意しましょう。


今回のまとめ。

・固定的賃金の変動とは、支給額の変動にとどまらず、「単価や支給率の変動」も対象となる。

・固定的賃金の変動月(起算月)は、「実際に支給が反映された月」と「1か月分が完全に確保された月」を対象とする。

・2等級以上の差による随時改定は、「増額改定」(固定的賃金が上がり報酬平均額も上がる)と「減額改定」(固定的賃金が下がり報酬平均額も下がる)のいずれかに該当する。

・支払基礎日数は、随時改定の算定対象期間となる3か月の「全て」の月が17日以上(短時間労働者の場合は11日以上)でなければならない。

以上

written by sharoshi-tsutomu

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