1年単位の変形労働時間制は、年間で業務に繁閑のある企業で、採用されています。
採用企業割合は、実に、34.3%(厚生労働省の令和4年就労条件総合調査)。
繁忙期には長い労働時間を設定し、閑散期には短い労働時間を設定することで、企業にとっては、繁忙期の残業代を低減できるメリットがあります。
デメリットは、労働時間管理や割増賃金計算が、煩雑となることです。
特に、1年単位の変形労働時間制の対象者が、対象期間の途中で入社・退職した場合は、実労働期間を対象期間として、未払いの割増賃金の清算が必要となります。
今回は、1年単位の変形労働時間制の対象者が対象期間の途中で入退社した場合の賃金清算について、確認します。
1.賃金清算の対象者と対象時間
1年単位の変形労働時間制の途中入退社の賃金清算の取扱いは、労働基準法第32条の4の2に規定されています。
第三十二条の四の二 使用者が、対象期間中の前条の規定により労働させた期間が当該対象期間より短い労働者について、当該労働させた期間を平均し一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合においては、その超えた時間(第三十三条又は第三十六条第一項の規定により延長し、又は休日に労働させた時間を除く。)の労働については、第三十七条の規定の例により割増賃金を支払わなければならない。
(労働基準法第32条の4の2)
賃金清算の対象者は、「当該対象期間より短い労働者」です。
具体的には、対象期間の途中での入社・退職・転勤等が該当します(平11.1.29基発第45号)。
産休や育休等で休暇中の労働者は賃金清算の対象外です(平11.3.31基発169号)。
賃金清算の対象時間は、「当該労働させた期間を平均し一週間当たり40時間を超えて労働させた場合においては、その超えた時間」です。
割増賃金を支払う時間(清算時間)は、以下の計算式で算出します。
割増賃金の既払いの時間とは、1年単位の変形労働時間制の割増賃金の支払対象となる時間のうち、以下の①と②の時間のことです。
①「日」単位の超過時間
労使協定で1日8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
②「週」単位の超過時間
労使協定で1週40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は1週40時間を超えて労働した時間(※①日単位の超過時間を除く。)
③「年(対象期間)」単位の超過時間
対象期間の法定労働時間総枠(40時間×対象期間の暦日数÷7)を超えて労働した時間(①日単位又は②週単位の超過時間を除く。)
対象期間の途中で入退社した場合は、対象期間の全期間について、在籍していないため、上記③の対象期間単位の超過時間に対する賃金清算を、実労働期間を対象期間として行うことが必要です。
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なお、閑散期にのみ在籍している場合は実労働時間が法定労働時間の総枠を下回ることがありますが、労基法第32条の4の2では、下回った場合の定めはありません。
所定労働時間の欠務として賃金規程等により規定すれば理論上は控除可能ですが、事務がさらに煩雑となりますので、やめましょう。
2.賃金清算の具体例
途中入退社時の賃金清算の時期は、途中入社の場合は対象期間の終了時点、途中退職の場合は退職時点となります。
東京労働局の1年単位の変形労働時間制導入の手引き【PDF】から、具体例を抜粋します。
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東京労働局の例は、所定労働時間だけ労働した前提になっており、割増賃金の既払いの時間(=日・週単位の超過時間)はない例となっています。
最後にまとめ。
・1年単位の変形労働時間制は、残業代を低減する効果がある。
・1年単位の変形労働時間制は、労働時間管理や割増賃金計算が煩雑となる。
・1年単位の変形労働時間制は、対象期間途中での入退社者には、個別に賃金清算が必要となる。
以上
written by sharoshi-tsutomu