始終業自由選択!フレックスタイム制の2つの導入要件と6つの協定事項

1001_社労士つとむの実務と法令
この記事は約6分で読めます。

フレックスタイム制とは、一定の期間の総労働時間を定めておき、労働者がその範囲内で各日の始業及び終業時刻を自由に選択できる制度です。

労働者がその生活と仕事との調和を図りながら、効率的に働くことを可能とし、労働時間を短縮しようとすることを法制趣旨としています。

厚生労働省の令和5年就労条件総合調査によると、導入会社は6.8%にとどまります。

企業側の普及が進まない理由としては、働く時間帯を労働者に委ねていては仕事が回らない業種や職種があること、労働時間管理や残業計算が煩雑となること等が想定されます。

一方で、労働者側としては、子育て等の各人の事情に応じて、始終業時間を調整できるメリットがあり、人材確保・定着の観点では、企業側も一考する価値のある制度です。

今回は、フレックスタイム制の2つの導入要件と6つの協定事項について確認します。

1.導入要件

フレックスタイム制の導入にあたっては「①就業規則への規定」と「②労使協定の締結」の2つの要件を満たすことが必要です(労基法第32条の3)。

①就業規則への規定

就業規則により「始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる」旨を定めることが必要です。

始業及び終業時刻の両方を労働者の決定に委ねる必要がありますので、始業時刻又は終業時刻の一方についてのみ労働者の決定に委ねるのは不可です。

規定例としては以下です。

(始業及び終業の時刻)
第○条 労使協定によりフレックスタイム制を適用する従業員の始業、終業時刻については、労使協定第○条で定める始業、終業の時間帯の範囲内において従業員が自由に決定できることとする。始業及び終業時刻以外のフレックスタイム制に関する他の事項については、別に定める労使協定の内容によるものとする。

②労使協定の締結

労使協定は、使用者と労働者との間で書面により締結する協定のことです。

労働者側の締結主体者は、過半数労働組合又は過半数代表者となります。

フレックスタイム制の導入にあたっては、労使協定の締結義務はありますが、労働基準監督署への届出は清算期間が1か月を超える場合「のみ」届出義務が生じます。

2.労使協定事項

労使協定では、次の6つの事項を定めることが必要です(労基法第32条の3・労規則第12条の3)。

対象となる労働者の範囲
清算期間
清算期間における総労働時間
標準となる1日の労働時間
コアタイム
フレキシブルタイム

協定事項の各項目について、具体的な協定内容や留意点を確認します。

①対象となる労働者の範囲

フレックスタイム制の対象となる労働者の範囲を定めます。

会社全体、部署単位、個人単位等、対象者は労使の合意により、任意に指定することが可能です。

フレックスタイム制の適用労働者に対しては、コアタイム以外の時間帯について労働の強制はできません。

例えば、特定の日のみであっても、フレキシブルタイムの時間帯に始業・終業時刻を会社が指定し、労働させることはできなくなります。

②清算期間

フレックスタイム制で労働者が労働すべき時間を定める期間を定めます。

清算期間の上限は、2019年4月の法改正により、3か月に変更されました。

清算期間の上限は緩和されましたが、清算期間が長くなればなるほど、清算期間における時間管理は煩雑となります。

賃金計算期間が1か月であることを勘案すれば、清算期間も1か月とすることが、賢明な判断でしょう。

なお、清算期間が1か月を超える場合には、労使協定の届出が必要です。

届出義務違反には罰則(30万円以下の罰金)が科せられることがあります。

🔎 清算期間が1箇月を超えるフレックスタイム制に関する協定届【PDF】|東京労働局https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000506288.pdf

③清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)

フレックスタイム制で、労働者が清算期間に労働すべき時間を定めます。

清算期間における総労働時間(所定労働時間)は、清算期間を平均し1週間の労働時間が法定労働時間の範囲内となるように定めなければなりません。

以下の算出式による総枠の法定労働時間未満とすることを要します。

↓ クリックして拡大 ↓

例えば、1か月を清算期間とした場合の週法定労働時間40時間の事業場の「清算期間の暦日数」に応じた「1か月の法定労働時間の総枠」は以下の通りです。

清算期間の暦日数1か月の法定労働時間の総枠
31日177.1時間
30日171.4時間
29日165.7時間
28日160.0時間

ーー超過時間の取扱いーー

時間外労働となるのは、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間が対象となります。

総枠を超えた時間に対しては、割増率25%以上の割増賃金の支払が必要です。

清算期間における総労働時間(所定労働時間)を超え、清算期間における法定労働時間の総枠までの時間は、法定内残業となりますので割増は不要です。

時間外労働と法定内残業を図にすると以下となります。

↓ クリックして拡大 ↓

休日労働(1週間に1日の法定休日に労働すること)の時間は、清算期間における総労働時間(所定労働時間)とは別個のものとして取り扱われますので、35%以上の割増率で計算した割増賃金の支払が必要となります。

ーー不足時間の取扱いーー

清算期間における実労働時間が総労働時間(所定労働時間)に満たない場合は、不就労時間として賃金控除をする、又は、不足時間を繰り越して次の清算期間の総労働時間(所定労働時間)に合算する選択が可能です。

④標準となる1日の労働時間

年次有給休暇を取得した際に支払われる賃金の算定基礎となる労働時間の長さを定めます。

単に時間数を定めることで足ります。

⑤コアタイム(※任意)

コアタイムとは、労働者が1日のうちで必ず労働しなければならない時間帯です。設定は任意です。

コアタイムを設ける場合は、その時間帯の開始及び終了の時刻を定めます。

コアタイムを設ける日と設けない日を設定することや、日によってコアタイムを異なる時間帯で設定することも可能です。

コアタイムのないフレックス制度は「完全フレックス制」や「スーパーフレックス制」と呼ばれます。

⑥フレキシブルタイム(※任意)

フレキシブルタイムは、労働者が自らの選択によって労働時間を決定することができる時間帯のことです。

フレキシブルタイムを設けることも、コアタイムと同様、任意です。

フレキシブルタイムを設ける場合には、その時間帯の開始及び終了の時刻を定めます。

なお、フレキシブルタイムが極端に短い場合、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致している場合等については、基本的には始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねたこととはなりません(昭63.1.1基発第1号)。


最後にまとめ。

・フレックスタイム制導入には、就業規則への規定と、労使協定の締結が必要。

・労使協定締結事項としては、対象となる労働者の範囲など6つの協定事項がある。

・6つの協定締結事項のうち、コアタイムとフレキシブルタイムの設置は任意。

以上

written by sharoshi-tsutomu

タイトルとURLをコピーしました