育児・介護休業法では、仕事と育児の両立支援制度が、多数、法制化されています。
平成22年6月30日より、3歳未満の子を養育する従業員に対する「所定労働時間の短縮措置(短時間勤務制度)」と「所定外労働の制限措置(残業免除制度)」が事業主に義務化されています。
厚生労働省の雇用均等調査(令和3年度)によると、短時間勤務制度の利用者がいた事業所の割合は17.0%、残業免除制度の利用者がいた事業所の割合は8.2%となっています。
事業主の懸念の一つは「短時間勤務者に残業をさせることはできるのか?」という点です。
結論は「残業免除が未請求であれば短時間勤務者を残業させることは可能」です。
短時間勤務制度と残業免除制度は、別制度です。
短時間勤務者が残業免除を請求していない場合は、残業させることは差し支えありません。
今回は、育児・介護休業法の両立支援制度である短時間勤務と残業免除・制限について、確認します。
1.短時間勤務制度の設置(育介法第23条)
短時間勤務制度の設置は、育児・介護休業法第23条に規定されています。
事業主は、その雇用する労働者のうち、その三歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていないもの(一日の所定労働時間が短い労働者として厚生労働省令で定めるものを除く。)に関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づき所定労働時間を短縮することにより当該労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための措置(以下この条及び第二十四条第一項第三号において「育児のための所定労働時間の短縮措置」という。)を講じなければならない。
~育児・介護休業法第23条(抜粋)~
短時間勤務制度の対象となる労働者は、「3歳に満たない子」(3歳の誕生日の前日までの子)を養育する労働者です。
各企業の任意の規定により、小学校就学前まで等、対象期間を延長することは可能です。
対象の労働者から除外することができるのは、一日の所定労働時間が6時間以下の者、日々雇用者、労使協定により適用除外とされた者等です。
また、管理監督者も労基法上の労働時間の規定の適用外となるため、短時間勤務制度の対象外とすることは差し支えありません。
短時間勤務制度は、一日の所定労働時間を「原則として6時間」とする措置を含むことが必要です。
「原則として6時間」とは、5時間45分から6時間までが許容されます。
一日の所定労働時間6時間の措置を設けた上で、一日7時間や所定労働日数を短縮する措置の追加など、各企業において労働者の選択肢を増やすことは問題ありません。
短時間勤務制度の適用を受けるための手続は、各企業の就業規則等の定めによります。
なお、労働者が希望し短時間勤務となった場合、短縮された時間について給与減額することは問題ありません。
2.所定外労働の制限(育介法第16条の8)
所定外労働の制限とは、つまり、残業免除の制度です。
育児・介護休業法第16条の8に規定されています。
事業主は、三歳に満たない子を養育する労働者であって、当該事業主と当該労働者が雇用される事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がないときはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定で、次に掲げる労働者のうちこの項本文の規定による請求をできないものとして定められた労働者に該当しない労働者が当該子を養育するために請求した場合においては、所定労働時間を超えて労働させてはならない。
~育児・介護休業法第16条の8(抜粋)~
所定外労働の免除の対象となる労働者は、「3歳に満たない子」(3歳の誕生日の前日までの子)を養育する労働者です。
勤続年数1年未満の者、日々雇用者、労使協定により適用除外とされた者は対象から除外することが可能です。
管理監督者も、労働時間等に関する規定が適用除外されていることから、所定外労働の免除の対象外です。
また、「事業の正常な運営を妨げる場合」は、事業主は労働者からの所定外労働の免除を拒否することができます。
「事業の正常な運営を妨げる場合」」に該当するか否かは、その労働者の所属する事業所を基準として、その労働者の担当する作業の内容、作業の繁閑、代替要員の配置の難易等諸般の事情を考慮して客観的に判断することとされています。
判断のポイントとしては、事業主がどこまで配慮をしたかという点がポイントです。
単に人が足りない、その人にしかできない仕事があるというだけでは足りません。
【法改正】
2025年度からは、「3歳に満たない子」は「小学校就学前まで」に改正される予定です。
🔎 第67回労働政策審議会雇用環境・均等分科会|厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37629.html
3.時間外労働の制限(育介法第17条)
所定外労働の制限は残業免除の制度となりますが、時間外労働の制限は一定時間までは残業を許容する制度です。
育児・介護休業法第17条に規定されています。
事業主は、労働基準法第三十六条第一項の規定により同項に規定する労働時間(以下この条において単に「労働時間」という。)を延長することができる場合において、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者であって次の各号のいずれにも該当しないものが当該子を養育するために請求したときは、制限時間(一月について二十四時間、一年について百五十時間をいう。次項及び第十八条の二において同じ。)を超えて労働時間を延長してはならない。
~育児・介護休業法第17条(抜粋)~
時間外労働の制限の対象となる労働者は、「小学校就学の始期に達するまでの子」(6歳に達する日(誕生日の前日)の属する年度の3月31日まで)を養育する労働者です。
勤続1年未満の者、日々雇用者は対象外とすることが可能です。
また「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当する場合は、事業主は労働者の請求を拒否できます。
時間外労働の制限を請求した労働者については、事業主は一か月24時間、一年150時間を超える時間外労働をさせてはなりません。
制限の対象となる「時間外労働」とは一週間につき40時間、一日につき8時間を超える労働時間です。
フレックスタイム制の場合は、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間が時間外労働に該当します。
なお、事業主は、小学校就学前の子を養育する労働者から請求のあった場合は、深夜(午後10時から午前5時まで)において労働させてはならないことになっています。
深夜業の制限は、育児・介護休業法第19条に規定されています。
事業主は、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者であって次の各号のいずれにも該当しないものが当該子を養育するために請求した場合においては、午後十時から午前五時までの間(以下この条及び第二十条の二において「深夜」という。)において労働させてはならない。
~育児・介護休業法第19条(抜粋)~
最後にまとめ。
・「短時間勤務制度」と「残業免除制度」の設置は事業主に義務化されている。
・残業免除を「未」請求の短時間勤務者であれば、事業主は残業させることができる。
・残業免除を請求「済」の短時間勤務者であれば、事業主は残業させることができない。
以上
written by sharoshi-tsutomu