在職老齢年金の支給停止調整額が、2026年4月から「62万円」に引き上げられます。
在職老齢年金とは、働きながら年金を受ける高齢者が一定以上の賃金を得ている場合に、老齢厚生年金の一部又は全部の支給を停止する仕組み。
そして、支給停止の基準となる額が、支給停止調整額です。
支給停止調整額は名目賃金変動率に応じて毎年4月に見直しされ、2025年度は「51万円」です。
従来は、賃金と老齢厚生年金の合計が月51万円(2025年度の場合)を超えると、超えた額の半額の年金が支給停止となっていました。
2026年4月からは、賃金と老齢厚生年金の合計が月62万円(毎年度、名目賃金変動率に応じて改定)に達するまでは、在職老齢年金制度による支給停止はなしとなります。
今回は、9つの質問形式で、在職老齢年金制度の概要や2026年4月改正の目的、在職老齢年金制度でよくある誤解について、確認します。
1. 在職老齢年金制度の概要
Q1.在職老齢年金制度の対象者は。
「厚生年金保険被保険者(適用事業所に使用される70歳未満の者)」又は「70歳以上被用者(被保険者であった70歳以上の者であって当該適用事業所に使用されるものとして厚生労働省令で定める要件に該当するもの)」で、老齢厚生年金を受ける60歳以上の人が対象となります。
70歳以上は厚生年金保険の被保険者ではありませんが、70歳に達し70歳以降も厚生年金適用事業所に勤務されている場合は、在職老齢年金制度が適用されることとなっています。
Q2.在職老齢年金制度の仕組みは。
賃金と年金の合計額が支給停止調整額を上回る場合に「賃金の増加2に対し年金額を1支給停止する」仕組みです。
例えば、支給停止調整額が51万円、賃金が51万円、年金が10万円の場合、賃金+年金額は61万円となり、支給停止調整額51万円を超えた10万円の半額の5万円の年金が支給停止されます。
前述の場合で、賃金が2万円増えると、年金は1万円停止されます。
これが、「賃金の増加2に対し年金額を1支給停止する」の意味です。
賃金とは、総報酬月額相当額のこと。毎月の賃金(標準報酬月額)+一年間の賞与(標準賞与額)を12で割った額となります。
年金とは、基本月額のこと。年金額(年額)を12で割った額です。なお、年金額には、加給年金額、繰下げ加算額及び経過的加算額を除いた老齢厚生年金の額であり、老齢基礎年金は含まれません。
支給停止調整額は、厚生年金保険法第46条第3項の規定により、名目賃金変動率に応じて、毎年度見直し(改定)されます。
Q3.支給停止期間や支給停止額の変更時期は。
支給停止期間は、基本月額と総報酬月額相当額の合計額が支給停止調整額を超えている期間となります。
支給停止額の変更時期は、総報酬月額相当額が変わった月または退職日の翌月(退職して1カ月以内に再就職し、厚生年金保険に加入した場合を除く)となります。
2. 2026年4月改正の内容
Q4.2026年4月の改正内容は。
厚生年金保険法第46条第3項の規定の支給停止調整額が「62万円」に引き上げされます。
改正前と改正後の厚生年金保険法第46条第3項の規定は以下です。
(改正前)
第一項の支給停止調整額は、四十八万円とする。ただし、四十八万円に平成十七年度以後の各年度の物価変動率に第四十三条の二第一項第二号に掲げる率を乗じて得た率をそれぞれ乗じて得た額(その額に五千円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五千円以上一万円未満の端数が生じたときは、これを一万円に切り上げるものとする。以下この項において同じ。)が四十八万円(この項の規定による支給停止調整額の改定の措置が講ぜられたときは、直近の当該措置により改定した額)を超え、又は下るに至つた場合においては、当該年度の四月以後の支給停止調整額を当該乗じて得た額に改定する。
(改正後)
第一項の支給停止調整額は、六十二万円とする。ただし、六十二万円に令和七年度以後の各年度の物価変動率に第四十三条の二第一項第二号に掲げる率を乗じて得た率をそれぞれ乗じて得た額(その額に五千円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五千円以上一万円未満の端数が生じたときは、これを一万円に切り上げるものとする。以下この項において同じ。)が六十二万円(この項の規定による支給停止調整額の改定の措置が講ぜられたときは、直近の当該措置により改定した額)を超え、又は下るに至つた場合においては、当該年度の四月以後の支給停止調整額を当該乗じて得た額に改定する。
なお、条文に規定されている支給停止調整額は、名目賃金の変動に応じて、毎年度、改定されます。
Q5.改正の目的は。
年金減額を避けるための就労抑制(いわゆる働き損)を防ぎ、意欲ある高齢者がより高い賃金を得ながら年金も受給できる環境を整えることが狙いです。
平均寿命・健康寿命が延びる中で働き続けることを希望する高齢者のニーズの高まりに応えるとともに、少子高齢化による深刻な労働力不足の解決という世の中のニーズにも応えるが期待されています。
Q6.改正により影響の受ける人は。
年金局調べによると、2022年度末時点の65歳以降の在職している年金受給権者は308万人。
そのうち、在職停止者数は50万人で、全体の16%です。
支給停止調整額の引き上げにより、支給停止者のうち3分の1程度は、支給停止が解除される見込みです(賃金+年金月額が50~60万円程度の人が解除となる)。
3. 在職老齢年金制度の誤解
Q7.老齢基礎年金も支給停止される?
在職による支給停止は、老齢厚生年金に対して行われるもので、老齢基礎年金は支給停止の対象とはなりません。
支給停止の対象は、あくまで「老齢厚生年金」の部分だけとなります。
Q8.加給年金も支給停止される?
加給年金とは、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人が65歳到達時点で、生計を維持している配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にある人を含む。)または子(18歳に達する日以降最初の3月31日までの間にあるか、20歳未満で障害等級の1級または2級に該当する障害の状態にあることが必要)がいるときに加算されます。
いわゆる、年金の家族手当。
老齢厚生年金が全額支給停止される場合は、加給年金額も、全額支給停止となります。
一部でも支給される場合は、加給年金額は、全額支給されます。
Q9.繰下げ受給で支給停止額は増額される?
繰下げ受給とは、年金を65歳で受け取らずに66歳以後75歳までの間で繰り下げることで、増額した年金を受け取る制度です。
在職老齢年金制度により支給停止された額は、繰下げ加算額の対象外です。
支給停止されていた額を除いて、繰下げ加算額が計算されることとなります。
最後にまとめ。
・在職老齢年金制度により、年金がカットされる基準額が、支給停止調整額。
・支給停止調整額は、2026年4月から、62万円に引き上げられる。
・法規定の62万円の支給停止調整額は、名目賃金変動率により毎年度改定されるため、昨今の状況では、2026年度は62万円を超える可能性が濃厚。
(参照)
🔎 在職老齢年金制度の見直しについて|厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00022.html
以上
written by soudanin-hajime
