2021年4月全面施行!同一労働同一賃金の7つの裁判でわかる不合理性の判断基準

2018年7月6日に公布された働き方改革では、3つの見直しが行われました。

長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、そして、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保です。

雇用形態に関わらない公正な待遇の確保とは、いわゆる「同一労働同一賃金」のこと。

同一労働同一賃金は、適用猶予されていた中小企業においても、2021年4月1日より施行されます(大企業は2020年4月1日より施行済)。

パートタイム・有期雇用労働法では、同一企業で働く正社員と短時間労働者・有期雇用労働者との間のあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることを禁止していますが、罰則規定はありません。

待遇差が不合理か否かは、最終的には裁判で判断されることとなります。

今回は、パートタイム・有期雇用労働法第8条の前身となる旧労働契約法第20条にかかる7つの裁判の争点と判決及び判決に至る理由を確認し、正規社員と非正規社員の不合理な待遇差の判断基準を理解することとします。

1.法施行前の2つの裁判

同一労働同一賃金法制施行前の2つの裁判では、不合理な待遇差を判断する基本的な観点が示されました。

一つ目は、不合理な待遇差は、個々の賃金項目の支給趣旨を個別に考慮し不合理であるか否かを評価すべきとされたこと(性質認定)。

二つ目は、待遇差の不合理性判断の考慮要素として、「①職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)」と「②職務の内容及び配置の変更の範囲」に加え、成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、労使交渉の経緯等を「③その他の事情」として考慮すべきとされたことです(3つの考慮要素)。

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【1】ハマキョウレックス事件🚛

●ハマキョウレックス事件(2018.6.1)|裁判所裁判例

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87784

有期雇用の契約社員と無期雇用の正社員の賃金格差については、個々の賃金項目の支給趣旨を個別に考慮し、不合理と認められるものであるか否かの評価をすべきとされました。

本件においては、契約社員と正社員の両者の「職務の内容」に違いはなく、「職務の内容及び配置の変更の範囲」に関しては、正社員は全国規模で異動があり、また、中核人材として登用される可能性もあるのに対し、契約社員は就業場所の変更や出向は予定されておらず、将来、中核人材として登用されることも予定されていないという違いがありました。

判決としては、「職務の内容及び配置の変更の範囲」による違いから、住宅手当は「不合理ではない」とされましたが、「職務の内容」が同一であれば賃金項目の性質から両者の間に差異が生ずるものではない皆勤手当・無事故手当・作業手当・給食手当・通勤手当は「不合理である」とされました。

【2】長澤運輸事件🚚

●長澤運輸事件(2018.6.1)|裁判所裁判例

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87785

定年再雇用者であることは労働契約法第20条の「その他の事情」に該当するものであり、賃金格差が不合理と認められるものであるか否かの評価にあたっては、考慮されるべき事項であるとされました。

本件においては、嘱託乗務員及び正社員は、その業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に違いはなく、業務の都合により配置転換等を命じられることがある点でも違いはないから、両者は、「職務の内容」並びに「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」において相違はないと結論づけられました。

一方で、有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たると解されました。

精勤手当と超勤手当については、「職務の内容」が同一であれば賃金項目の性質から両者の間に差異が生ずるものではないとして「不合理である」とされましたが、住宅手当・家族手当・賞与については嘱託乗務員が定年後に再雇用された者である「その他の事情」が考慮され「不合理ではない」とされました。

2.法施行後の5つの裁判

同一労働同一賃金法制施行後の5つの裁判では、賃金項目ごと(待遇ごと)の性質認定と3つの考慮要素を踏まえ不合理性の判断がなされています。

【3】大阪医科薬科大学事件🏥

●大阪医科薬科大学事件(2020.10.13)|裁判所裁判例

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89767

「賞与」と「私傷病欠勤中の賃金」について、大学の教室事務員である正職員に対して支給する一方で、アルバイト職員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は「不合理ではない」とされました。

賞与の性質としては、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から支給するものであり、また、私傷病欠勤中の賃金の性質も、正職員が長期にわたり継続して就労し、又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保するという目的があり、いずれも長期雇用が前提となる正職員に対するものとされました。

また、不合理性判断の3要素においても、「職務の内容」・「職務の内容及び配置の変更の範囲」には、一定の相違があったことは否定できず、「その他の事情」という面でも、アルバイト職員は契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられている点等が考慮されました。

【4】メトロコマース事件🚈

●メトロコマース事件(2020.10.13)|裁判所裁判例

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89768

地下鉄の駅構内の売店における販売業務に従事する無期契約労働者に対して退職金を支給する一方で、同業務に従事する有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は「不合理ではない」とされました。

退職金の性質は、職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものであるとされました。

また、不合理性判断の3要素においても、「職務の内容」・「職務の内容及び配置の変更の範囲」には、一定の相違があったことは否定できず、「その他の事情」という面でも、契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け、相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである点等も考慮された。

【5】日本郵便佐賀事件📬

●日本郵便佐賀事件(2020.10.15)|裁判所裁判例

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89771

無期契約労働者に対しては夏期休暇及び冬期休暇を与える一方で有期契約労働者に対してはこれを与えないという労働条件の相違は「不合理である」とされました。

無期契約労働者と有期契約労働者の間に「職務の内容」や「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」「その他の事情」につき相応の相違があるとされましたが、夏期休暇及び冬期休暇は心身の回復を図るという目的であり、無期契約労働者の勤続期間の長さに応じて異なるものではない上、有期契約労働者も短期間の勤務ではないことから、有期契約労働者にも与えることが妥当であると結論づけられました。

【6】日本郵便東京事件📬

●日本郵便東京事件(2020.10.15)|裁判所裁判例

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89772

私傷病による病気休暇として無期契約労働者に対して有給休暇を与えるものとする一方で有期契約労働者に対して無給の休暇のみを与えるものとするという労働条件の相違は「不合理である」とされました。

郵便の業務を担当する正社員と上記時給制契約社員との間に「職務の内容」や「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」「その他の事情」につき相応の相違があること等を考慮しても、郵便の業務を担当する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることが妥当であると結論づけられました。

また、年末年始勤務手当も、所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり、その支給金額も、実際に勤務した時期と時間に応じて一律であり、年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば、郵便の業務を担当する時給制契約社員にも支給することが妥当でされました。

【7】日本郵便大阪事件📬

●日本郵便大阪事件(2020.10.15)|裁判所裁判例

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89773

無期契約労働者に対して年末年始勤務手当・祝日給・扶養手当を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は「不合理である」とされました。

本件も、佐賀事件や東京事件と同様に、両者の間に「職務の内容」や「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」「その他の事情」につき相応の相違があることを考慮しても、各賃金項目の支給の目的や性質を鑑みれば不合理であると認められました。


最後にまとめ。

・不合理な待遇差は、①職務の内容、②職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情の3つの考慮要素を踏まえて判断する。

・不合理な待遇差は、正規社員と非正規社員の待遇全体ではなく、一つ一つの待遇ごとに性質や目的を照らして判断する。

・不合理な待遇差を解消するには、一つ一つの待遇ごとの性質や目的と、正社員と短時間労働者・有期雇用労働者の3つの考慮要素を明確化することが必須である。

以上

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