これはアウト!パワハラ認定の3要素と典型的な6類型の裁判例

2019年5月に「労働施策総合推進法」が改正されました。

改正により、大企業は2020年4月から、中小企業は2022年4月から、職場におけるパワーハラスメント対策が、事業主に義務付けられています。

パワハラに該当するか否かの判断基準に用いられるのが、パワハラ認定の3要素です。

そして、パワハラの代表的な事例を分類したのが、パワハラの6類型です。

今回は、パワハラの3要素と6類型について、裁判例も参照し、確認してみましょう。

1.パワハラの3要素

はじめに、パワハラの判断基準が規定されている労働施策総合推進法第30条の2の条文を確認してみましょう。

<労働施策総合推進法第30条の2>
(雇用管理上の措置等)
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
3 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。
4 厚生労働大臣は、指針を定めるに当たつては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くものとする。
5 厚生労働大臣は、指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。
6 前二項の規定は、指針の変更について準用する。

パワハラに該当するのは、3要素の「すべて」を満たすものです。

それぞれの要素について、具体的な定義や内容を確認してみましょう。

【要素1】優越的な関係を背景とした言動

「優越的な関係」とは、抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係のことです。

具体的な例としては、以下のような例が該当します。

・ 職務上の地位が上位の者による言動
・ 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
・ 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの

その人の言うことを聞かないと、仕事がまともに遂行できないような場合でしょう。

行為者は、上司・同僚・部下を、問いません。

【要素2】業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」とは、社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又は、その態様が相当でないものを指します。

判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が 行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係 性等)を総合的に考慮することが適当であるとされています。

具体的な例としては、以下のような例が該当します。

・業務上明らかに必要性のない言動
・業務の目的を大きく逸脱した言動
・業務を遂行するための手段として不適当な言動
・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

上記の例でも、判断に迷わないのは、回数くらいのため、判断は、とても難しいです。

【要素3】労働者の就業環境が害される

「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指す。

判断基準は、「平均的な労働者の感じ方」です。

この判断も、難解です。

パワハラの6類型を確認し、具体的な事例で理解することにしましょう。

2.パワハラの6類型

つぎに、パワハラの6類型について、類型ごとに典型的な職場におけるパワハラに「該当すると考えられる例」と「該当しないと考えられる例」を、「裁判例」も参照して、確認してみましょう。

【類型1】身体的な攻撃

暴行や傷害のこと

◆該当すると考えられる例

・殴打、足蹴りを行うこと。

・相手に物を投げつけること。

◆該当しないと考えられる例

・誤ってぶつかること。

◆裁判例

(家電量販店・東京地裁平17.10.4判決)
会話練習の際に、販売促進用ポスターを丸めた紙筒様の物で頭部を強く約30回殴打、机上のクリップボードを取り、その表面及び側面を使って、ある程度力を込めて更に頭部を約20回殴打。商品取り置きに関する問題で、大腿の外側膝付近を3回にわたって強く蹴った。入店時間に関する虚偽の電話連絡で、左頬を手拳で数回殴打し、右大腿部を膝を使って蹴り、頭部に対して肘や拳骨で殴打する暴行が合計約30回に及んだ。
(鉄道会社・最高裁二小平8.2.23判決)
勤務中の規則違反のベルト着用に対し、就業規則の書き写し等の教育訓練が命じられ、手を休めていると、怒鳴る、机を叩いたり蹴ったり、湯茶を飲むことを許さなかった。

裁判例は、明らかに指導レベルを超えた身体的な攻撃であると認められた事例です。

【類型2】精神的な攻撃

脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言のこと

◆該当すると考えられる例

・人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。

・業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。

・他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。

・相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。

◆該当しないと考えられる例

・遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること。

・その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること。

◆裁判例

(保険会社・東京高判平17.4.20)
役職に比して処理件数が少なく熱意が感じられないとして、「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います」などと記載された電子メールを本人とその職場の同僚に送信した。
(東京地判平20.11.12)
注意指導として、1か月に2回以上、執拗に、かつ、数回は2時間を超えて起立させたまま、叱責した。

裁判例は、本人に加え他の労働者にもメール送信を行った、複数回に渡り長時間起立させてまま叱責した事例であり、精神的な攻撃であると認められた事例です。

【類型3】人間関係からの切り離し

隔離・仲間外し・無視のこと

◆該当すると考えられる例

・自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。

・一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること。

◆該当しないと考えられる例

・新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること。

・懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること。

◆裁判例

(運輸会社・富山地判平成17.2.23)
会社のヤミカルテルの疑惑を告発後、異動させられ、20数年以上、他の社員とは離れた2階個室に席を配置され、研修生の送迎等の雑務しか与えられず、また、昇格もしなかった。
(高等学校・東京高裁平5.11.12判決)
労働組合に所属し中心的な役割を担っていた教諭に対し、授業・担任等の仕事外し、職員室内での隔離、何らの仕事が与えられないままの4年6ヶ月にわたる別室への隔離、5年以上にわたる自宅研修等の命令や、一時金の不支給・賃金の据置が行われた。

運輸会社の例では20年以上、高等学校の例では5年以上、隔離されており、人間関係からの切り離しであると認められた事例です。

【類型4】過大な要求

業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害のこと

◆該当すると考えられる例

・長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること。

・新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること。

・労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること。

◆該当しないと考えられる例

・労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること。

・業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること。

◆裁判例

(信販会社・東京地裁平14.7.9判決)
経理部の根拠不明の出金等の調査後に、経理担当を外れ物産展業務に1人で従事させられ、勤務は早朝から深夜に及び休憩もとれず、土日出勤もあったため、人員補充を求めたが、約半年間特段の措置はとられなかった。
(建設会社・津地裁平21.2.19判決)
養成社員として入社した者に対して、今日中に仕事を片づけておけと命じ、1人遅くまで残業せざるを得ない状況にさせ、他の作業員らの終わっていない仕事を押しつけた。

裁判例は、1人では到底終わらない仕事を押しつけ、上司も他の従業員に仕事割り振りすることもしなかった事例であり、過大な要求と認められた事例です。

【類型5】過小な要求

業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと

◆該当すると考えられる例

・管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。

・気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。

◆該当しないと考えられる例

・労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること。

◆裁判例

(バス会社・横浜地裁平11.9.21判決)
路線バスを駐車車両に接触させる事故を起こしたバスの運転士に対し、下車勤務として1か月の営業所構内の草むしりをさせた。
(結婚式運営会社・最高裁第二小法廷昭62.10.16判決)
地位保全の仮処分により再度パート労働契約を締結した労働者に対し、従前に従事していた衣装・包装の仕事ではなく、門の開閉・草取り・ガラス拭き・床磨き等の業務に従事させた。

裁判例は、いずれも本来予定されていない業務に見せしめ的に不必要な業務を命じた事例であり、過小な要求と認められた事例です。

【類型6】個の侵害

私的なことに過度に立ち入ること

◆該当すると考えられる例

・労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。

・労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。

◆該当しないと考えられる例

・労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと。

・労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと。

◆裁判例

(市役所・福岡高裁平25.7.30判決)
男性職員が女性職員との交際を巡り、総務課長から、「若い子を捕まえて、だまして」や「危険人物だぞ。これまでもたくさんの女性を泣かせてきた。」といった暴言があった。
(ホテル運営会社・東京高裁平25.2.27判決)
お酒が飲めない労働者に対し、「俺の酒は飲めないのか。」などと執拗に飲酒を要求した。また、帰社命令に反した直帰後の午後11時頃に、「僕は一度も入学式や卒業式に出たことはありません。」とメールし、さらにその後2度にわたって原告の携帯電話に電話をかけ、「私、本当に怒りました。明日、本部長のところへ、私、辞表を出しますんで、本当にこういうのはあり得ないですよ。」と怒りを露わにした留守電を残した。

裁判例は、交際という私的な事項について不用意に介入をしたり、業務時間外に執拗に介入した事例であり、個の侵害であると認められた事例です。


常軌を逸した言動や行動は、厳に慎むことが必要です。

以上

written by hourei-mamoru