実質無期雇用?雇止め法理の適用と解雇権濫用法理の類推適用

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雇止めとは、労働者の契約更新の申込に対して、使用者が更新を拒否し、契約期間満了により雇用関係を終了させること。

労働者保護の観点で、過去の判例により一定条件を満たす場合はこれを無効とする「雇止め法理」が法定化されています。

雇止め法理の対象となるのは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときです。

つまり、雇止め法理の対象であれば、「解雇権濫用法理」が類推適用されることとなります。

今回は、有期契約労働者の雇止めする場合の判例法理や留意点を確認します。

1.雇止め法理(労働契約法第19条)

雇止め法理は、労働契約法第19条に規定されています。

(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

対象となる有期労働契約は、条文の一号・二号のいずれかに該当する場合です。

第一号は「実質無期契約タイプ」、第二号は「反復更新タイプ」と分類されています。

◆実質無期契約タイプ

有期労働契約が反復更新され、雇止めが解雇と社会通念上同視できると認められる場合

・業務内容が恒常的で更新手続きが形式的。

・雇用継続を期待させる使用者の言動が認められる。

・同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例がほとんどない。

代表的な裁判例は、東芝柳町工場事件(昭49.7.22最高裁第一小法廷判決)です。

<東芝柳町工場事件>
・従事する仕事の種類や内容は正規社員と同一であるが、景気変動による需給にあわせ雇用量を調整するため2か月の臨時工を雇用。
・臨時工の採用に際しては、長期継続雇用や正規社員への登用を期待させるような言動有り。
・臨時工はほとんどが長期で継続雇用され雇止めもなく、実質的に無期契約と同視できると状態。
⇒ 解雇事由に該当しないことから、雇止めは無効

🔎 臨時工に対するいわゆる傭止めの効力の判断にあたり解雇に関する法理を類推すべきであるとされた事例|最高裁判所判例集

◆反復更新タイプ

労働者が有期労働契約の契約期間満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められる場合

・業務内容が恒常的であり更新回数が多い。

・業務内容は正社員と同一ではない。

・同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例がある。

代表的な裁判例は、日立メディコ事件(昭61.12.4最高裁判決)です。

<日立メディコ事件>
・臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約が前提。
・前作業的要素の作業、単純な作業、精度がさほど重要視されていない作業に従事。
・臨時従業員全員の雇い止めを行うことが前提。
⇒ 事業上やむを得ないとし、雇止めは有効

🔎 臨時員に対する雇止めにつき解雇に関する法理を類推すべき場合においてその雇止めが有効とされた事例|最高裁判所判例集

法第19条の第一号・第二号の雇止め法理に該当するか否かは、
・当該雇用の臨時性・常用性
・更新の回数
・雇用の通算期間
・契約期間管理の状況
・雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無
などを、総合的に考慮して、個々の事案ごとに判断されることとなります。

2.解雇権濫用法理(労働契約法第16条)

雇止め法理が適用される場合、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めは無効です。

いわゆる解雇権濫用法理の類推適用がなされます

解雇権濫用法理は、労働契約法第16条に規定されています。

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

解雇権濫用法理の参考となる裁判例は、日本食塩製造事件(昭50.4.25最高裁判決)があります。

日本食塩製造事件では、労働協約及び就業規則に定められた解雇基準に該当せず、なんら合理的理由がないとされ、権利濫用により解雇は無効とされました。

🔎 除名が無効な場合におけるユニオン・ショップ協定に基づく解雇の効力|最高裁判所判例集

解雇事由は、就業規則の絶対的必要記載事項です。

厚生労働省のモデル就業規則では、解雇事由を以下で規定しています。

<モデル就業規則(令和5年7月版)>
第53条  労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。
①勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。
②勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。
③業務上の負傷又は疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷又は疾病が治らない場合であって、労働者が傷病補償年金を受けているとき又は受けることとなったとき(会社が打ち切り補償を支払ったときを含む。)。
④精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき。
⑤試用期間における作業能率又は勤務態度が著しく不良で、労働者として不適格であると認められたとき。
⑥第68条第2項に定める懲戒解雇事由に該当する事実が認められたとき。
⑦事業の運営上又は天災事変その他これに準ずるやむを得ない事由により、事業の縮小又は部門の閉鎖等を行う必要が生じ、かつ他の職務への転換が困難なとき。
⑧その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき。

雇止め法理が適用され、解雇権濫用法理が類推適用される場合、使用者は自社の就業規則の解雇事由に該当するか否か、慎重な判断が求められます。

解雇権濫用法理の類推適用により雇止めが無効となった場合、使用者は、従前の有期労働契約と同一の 労働条件で労働者による有期労働契約の更新又は締結の申込みを承諾したものとみなされ、有期労働契約が同一の労働条件で成立することとなります。

3.雇止めの予告と理由の明示

厚生労働省告示の「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準」により、雇止めをする場合は、雇止めの予告と理由の明示が、使用者に義務づけられています。

使用者は、有期労働契約を更新しない場合は、少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までに、その予告をしなければなりません。

<雇止めの予告対象となる有期労働契約>
①有期労働契約が3回以上更新されている場合
②1年以下の契約期間の労働契約が更新または反復更新され、最初に労働契約を締結してから継続して通算1年を超える場合
③1年を超える契約期間の労働契約を締結している場合

また、使用者は、雇止めの予告後に労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なくこれを交付しなければなりません。

契約期間の満了とは別の理由とすることが必要です。

<雇止めの理由の例>
・前回の契約更新時に本契約を更新しないことが合意済。
・契約締結当初から、 更新回数の上限有り。
・担当業務の終了や中止。
・事業縮小。
・業務遂行能力不足。
・職務命令違反。無断欠勤等の勤務不良。 など。


最後にまとめ。

・実質無期雇用の場合、雇止め法理の対象となる。

・雇止め法理の対象となれば、解雇権濫用法理が類推適用される。

・使用者が雇止めするには、適切な有期雇用管理が必須。

以上

written by sharoshi-tsutomu

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