給与所得者の所得税の精算は、ほとんどの人が、年末調整により確定します。
しかしながら年の中途で入社や退職した場合、年末調整の対象外となることがあります。
年末調整の対象外となると所得者本人が確定申告により、所得税の精算を行うことが必要です。
今回は、年の中途で入社や退職した場合の年末調整の取扱いについて、確認します。
1.中途入社者の年末調整の要否
中途入社者が年末調整の対象になるか・ならないかは、前職分の『給与所得の源泉徴収票』の提出有無により、取扱いが異なります。
🔎 中途就職者の年末調整|国税庁
1-1.前職分の給与所得の源泉徴収票の提出が有る場合
年末調整は、前職分の給与所得も含めて、実施することが、原則です。
所得税法第190条の規定を、確認しましょう。
(年末調整)
~所得税法第190条~
第百九十条 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(その居住者がその後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合を除く。)において、同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければならない。
一 その年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等(その居住者がその年において他の給与等の支払者を経由して他の給与所得者の扶養控除等申告書を提出したことがある場合には、当該他の給与等の支払者がその年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等で政令で定めるものを含む。次号において同じ。)につき第百八十三条第一項(源泉徴収義務)の規定により徴収された又は徴収されるべき所得税の額の合計額
二 略
他の給与等の支払者に扶養控除等申告書を提出したことがある場合は、他の給与等の支払者が支払った給与等も含める旨、規定されています。
一言でいえば、「前職の給与も含めて、年末調整してね。ということです。
よって、前職分の『給与所得の源泉徴収票』の提出が有る場合は、年末調整の対象となります。
ただし、留意も、必要です。
2か所以上から給与の支払を受けている所得者で、年の中途で『給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』の提出先を変更した人については、前職分の『給与所得の源泉徴収票』で対象となるのは、いわゆる「甲欄給与」のみです。
前職の退職日後に支給された「乙欄給与」は、対象外です。
所得税法施行令第311条の規定を確認しましょう。
(再就職者等の年末調整の対象となる給与等)
~所得税法施行令第311条~
第三百十一条 法第百九十条第一号(年末調整)に規定する政令で定める給与等は、同号に規定する他の給与等の支払者が同号に規定する居住者に対して支払うべき給与等のうちその年一月一日から当該支払者が法第百九十四条第一項(給与所得者の扶養控除等申告書)に規定する主たる給与等の支払者でなくなる日(当該支払者がその年中において当該主たる給与等の支払者でなくなる日が二以上ある場合には、最後に主たる給与等の支払者でなくなる日)までの間に支払うべきことが確定した給与等とする。
前職分の『給与所得の源泉徴収票』の「乙欄」に「〇」が表示されている場合は「乙欄給与」です。
年末調整精算にあたっては、「乙欄給与」の金額は、含めないように留意しましょう。
🔎 主たる給与の支払者が交代した場合の記載方法|国税庁
なお、当年中に前職がない場合は、中途入社後の給与のみで、年末調整を行うこととなります。
・・ 💡 ワンポイント 💡 ・・
前職分の給与等を加算すると2000万円を超えてしまう場合があります。
給与収入が2000万円を超える場合は、年末調整は、対象外です。
よって、『給与所得の源泉徴収票』にも、前職分の給与等の加算は、不要です。
🔎 中途就職者で就職前の会社が支払った給与等を合計すると2,000万円を超える場合の源泉徴収票の記載方法|国税庁
1-2.前職分の給与所得の源泉徴収票の提出がない場合
前職分の『給与所得の源泉徴収票』の提出がない場合、年末調整は対象外です(行うことはできません)。
前職分があるにもかかわらず前職分を含めずに、年末調整を行うと、年末調整精算により過大な税額の還付が所得者になされることとなります。
所得者は確定申告時に、年末調整精算により、一時的に還付された税額の戻しが生ずることとなりますので、留意しましょう。
2.中途退職者の年末調整の要否
中途退職者が年末調整の対象になるか・ならないかは、12月分給与の支給有無により、取扱いが異なります。
2-1.12月分の給与の支給が有る場合
年末調整の対象となるのは、原則として、12月31日の在籍者です。
ただし、年の中途で退職した人のうち「12月中に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職した人」は、年末調整の対象となります。
「支給期」とは、「給与所得の収入金額の収入すべき時期」のこと。
給与所得の収入金額の収入すべき時期は、支給日が定められている場合は、その支給日となります。
つまり、「支給期」とは、「支給日」のことです。
🔎 給与所得の収入金額の収入すべき時期|国税庁
よって、12月31日前の退職であっても、12月給与支給日後の退職者は、年末調整の対象とすることが可能です。
例えば、12月25日が給与支給日の会社であれば、12月26日以降の退職者は、年末調整の対象とすることが可能です。
ただし、留意も、必要です。
例えば、11月分の給与を12月に支給する前月末締、当月支給の会社であれば、転職して12月分の給与を転職先の会社から受け取ることがあります。
よって、12月に支給されている給与が、あくまでも、12月「分」である場合のみ、年末調整の対象とすることが可能です。
2-2.12月分の給与の支給がない場合
12月分の給与の支給がない場合は、年末調整は対象外です。
ただし、以下、例外もあります。
・死亡により退職した人
・著しい心身の障害のため退職した人で、その退職の時期からみて、本年中に再就職ができないと見込まれる人
・いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人 (退職後本年中に他の勤務先等から給与の支払を受けると見込まれる場合を除きます。)
死亡退職による死亡時年調以外は、退職時に会社側としての確定の判断は困難ですので、年末調整は対象外とすることが賢明です。
🔎 中途退職で年末調整を受けていないとき|国税庁
最後にまとめ。
・中途入社者や中途退職者が、年末調整の対象とするには、条件がある。
・中途入社者で、前職分『給与所得の源泉徴収票』の未提出者は、年末調整の対象としない。
・中途退職者で、12月給与支給日「後」の退職者は、年末調整の対象とすることが可能。
以上
written by tantosya-masao