残業代の計算方法を完璧に理解する5つのポイントと7つの法令通達

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004_残業代の計算方法を完璧に理解する5つのポイントと7つの法令通達
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厚生労働省の監督指導による賃金不払残業の是正結果によると、平成29年度の是正企業数(支払額100万円以上)は1870企業、支払われた割増賃金合計額は446億円にのぼります。

🔎 監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成29年度)|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/chingin-c_h29.html

今回は残業代を計算する上で5つのポイントを7つの法令と通達根拠でご案内します。

1.残業時間

残業時間とは、所定労働時間(各事業所で定めれらた労働時間)以上の労働をいいます。残業代の支払根拠は労基法第37条で規定されています。

―労働基準法第37条第1項―
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第37条 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。(ただし、――略)

法定労働時間は、労基法第32条で1日8時間、1週40時間と規定されています。

―労働基準法第32条―
(労働時間)
第32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

1日の所定労働が7時間の事業場において8時間労働した場合、1時間は所定外労働となりますが8時間以内ですので法定内残業の取扱いで足ります。法定内残業は割増も不要となりますので、時間外労働とは区別し管理します。

また、残業時間の集計にあたっては、特例対象事業場と適用除外者についても、理解しましょう。

特例措置対象事業場とは、商業、映画・演劇業(映画製作の事業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業で常時使用する労働者が10人未満の事業場をいい、1週間の法定労働時間は44時間となります(労基則第25条の2)。

適用除外者とは、労働時間の規定の適用を除外される者をいい、いわゆる管理監督者等が該当します(労基法第41条)。

労働時間の適用除外については、名ばかり管理職の取扱いに留意しましょう。厚生労働省は「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」(平成20年9月9日基発第0909001号)において管理監督者の判断要素を示しています。職制上の役職名ではなく実態に応じた運用が求められます。

🔎 多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における 管理監督者の範囲の適正化について|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/09/h0909-2.html

なお、変形労働時間制やフレックスタイム制等の例外的な労働時間制度を導入している事業場においては残業時間の集計は一般的な集計とは異なることから、各制度に応じ適正な時間管理が必要です。

賃金不払残業の是正の多くは、適正な労働時間管理が行われていないことに起因しています。使用者は適正な労働時間管理を徹底しましょう。

2.割増率

次は、割増率です。割増率も労基法第37条に規定されています。

―労働基準法第37条―
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第37条 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2・3 略
4 使用者が、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
5 略

政令で定める率は、時間外労働は2割5分、法定休日労働は3割5分です。

―労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令―
労働基準法第37条第1項の政令で定める率は、同法第33条又は第36条第1項の規定により延長した労働時間の労働については2割5分とし、これらの規定により労働させた休日の労働については3割5分とする。

割増率を整理すると以下となります。

①時間外労働・・・割増率25%

②時間外労働(1か月60時間超)・・・割増率50%(中小企業は猶予措置有り)

③法定休日労働・・・割増率35%

④深夜労働・・・割増率25%

時間外労働が深夜に及んだ場合、深夜残業時間は①時間外労働(割増率25%)と④深夜労働(割増率25%)を加算した割増率50%以上の割増賃金支払が必要です。

また、深夜労働は労基法第41条の適用除外者についても支払義務が生じます。時間外労働や休日労働の割増は長時間勤務を補償する趣旨であるのに対し、深夜労働の割増は通常は休息時間となる時間に労働させることに対する補償を趣旨としています。

なお、①~④以外に36協定で特別条項を定めている事業場の場合、限度時間以上の労働に対する割増賃金率は法定割増賃金率(2割5分)超とする努力義務を使用者に課しています。

―労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準第3条第3項―
(一定期間についての延長時間の限度)
3 労使当事者は、第1項ただし書の規定により限度時間を超える時間の労働に係る割増賃金の率を定めるに当たっては、当該割増賃金の率を、法第36条第1項の規定により延長した労働時間の労働について法第37条第1項の政令で定める率を超える率とするように努めなければならない。

3.基礎賃金

割増賃金の除外賃金は、限定列挙されています。

―労働基準法第37条第5項―
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
5 第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

家族手当と通勤手当のほかは、厚生労働省令を参照します。

―労働基準法施行規則第21条―
第21条 法第37条第5項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第1項及び第4項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。
一 別居手当
二 子女教育手当
三 住宅手当
四 臨時に支払われた賃金
五 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

よって、除外賃金は以下の7つになります。

①家族手当

②通勤手当

③別居手当

④子女教育手当

⑤住宅手当

⑥臨時に支払われた賃金

⑦1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

7つは例示ではなく限定列挙です。7つに該当しないものは全て基礎賃金に算入しなければなりません。

例えば、年俸制で支給額が確定している賞与は、支給額が確定していることから賞与としてはみなされない(上記の⑥・⑦には該当しない)ので、賞与部分も含めて割増賃金の基礎賃金とすることが必要です(平成12年3月8日基収第78号)。

4.時間単価

時間単価の計算にあたっては基礎賃金が分子、時間が分母になります。時間単価の計算は賃金支払形態別に規定されています。

―労働基準法施行規則第19条―
第19条 法第37条第1項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第33条若しくは法第36条第1項の規定によつて延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後10時から午前5時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時)までの労働時間数を乗じた金額とする。
一 時間によつて定められた賃金については、その金額
二 日によつて定められた賃金については、その金額を1日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異る場合には、1週間における1日平均所定労働時間数)で除した金額
三 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異る場合には、4週間における1週平均所定労働時間数)で除した金額
四 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、1年間における1月平均所定労働時間数)で除した金額
五 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額
六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額
七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額
2 休日手当その他前項各号に含まれない賃金は、前項の計算においては、これを月によつて定められた賃金とみなす。

一般的な3つの賃金支払形態の時間単価の計算は以下となります。

①月給者:月給(基礎賃金)÷1年間における1か月平均所定労働時間

②日給者:日給÷1日の所定労働時間

③時給者:時給

月給者の「1年間における1か月平均所定労働時間」の算出式は「年間所定労働日数×1日の所定労働時間÷12か月」となります。

5.端数処理

最後は端数処理です。事務簡便を目的とし通達で端数処理が認められています。

―昭和63年3月14日 基発第150号―
(割増賃金計算における端数処理)
次の方法は、常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるから、法第24条及び法37条違反としては取り扱わない。
(1)1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。
(2)1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。
(3)1か月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、(2)と同様に処理すること。

端数処理が認められるのは、以下の3つです。

①残業時間:各々の時間数の月次集計における1時間未満の端数

②時間単価・割増単価:円未満の端数

③残業代:割増賃金の種別ごとの円未満の端数

特に①の残業時間の端数処理は1日の労働時間は1分単位で計算しなければなりません。日次での端数処理は認められません。


最後に罰則です。

賃金不払残業に対する罰則(労基法第37条違反)は、労基法第119条で6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金が規定されています。

また、労基法第114条で付加金の支払が定められています。裁判所は労基法第37条違反の使用者に対し未払金と同一額の付加金の支払を命ずることができます。

裁判まで争われる事案においては、不払分に加え付加金の支払、さらに不払分と付加金に対し損害遅延金も加わりますので、不払額の倍以上の額を使用者が支払う可能性もあります。

―参照法令・通達―
・労働基準法第32条(労働時間)
・労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
・労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令
・労働基準法施行規則第19条
・労働基準法施行規則第21条
・労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準第3条
・昭和63年3月14日基発第150号(割増賃金計算における端数処理)

以上

written by syaroshi-tsutomu

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