新型コロナで自宅待機!使用者の休業手当の支払義務と計算方法と補償制度

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039_新型コロナで自宅待機!使用者の休業手当の支払義務と計算方法と補償制度
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新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の休止や労働者の感染拡大防止策として、自宅待機の措置を講じている企業もあるでしょう。

労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由により労働者を休業させた場合、使用者は労働者に休業期間中の賃金の60%以上を休業手当として支払うことを規定しています。

一方、国は企業に対し休業手当を助成する仕組みとして、雇用調整助成金の制度を設けています。

労働者は雇用維持の代わりに賃金減額を受け入れる、企業は労働者に休業手当を支払うがその金額の一部を国から助成金として受け取る、国は企業への助成を行うことで雇用の安定を実現する――。

いわゆる「三方一両損」の精神で危機を回避する仕組みです。

今回は、休業手当の支払義務が生じた場合の休業手当の計算方法と、国による休業手当の補償制度について確認します。

1.休業手当の支払義務

はじめに、休業手当の支払義務について、労働基準法第26条の条文規定で確認しましょう。

~労働基準法第26条~
(休業手当)
第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

休業手当の支払義務が生じるのは「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合です。

新型コロナウイルス感染症に関連し「使用者の責に帰すべき事由による休業」の典型例としては、次の❶・❷のようなケースがあげられます。

❶事業の休止に伴い労働者を休業させる場合

新型コロナウイルス感染症により、事業の休止を余儀なくされ労働者を休業させる場合は、使用者に休業手当の支払義務が生じます。

ただし、主要な取引先の事業休止、他の代替手段の可能性、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、不可抗力による休業であると認められる場合は、使用者に休業手当の支払義務はありません。

緊急事態宣言の発令を受けて―――

厚生労働省のQ&Aが更新され「新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請・指示を受けて事業を休止する場合、労働基準法の休業手当の取扱はどうなるでしょうか。」という問いの回答として、「新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請や指示を受けて事業を休止し、労働者を休業させる場合であっても、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務がなくなるものではありません。」と曖昧な回答となっています。

これは、緊急事態宣言の発令による要請や指示は不可抗力(外部性)としては認めるが、その不可抗力に対して企業としてどこまで努力したか(回避困難性)も求めることを意味しています。

厚生労働省は企業の休業回避措置として、以下の2点を例示しています。

・自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか。

・労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか。

緊急事態宣言の発令されたことにより休業を余儀なくされた場合は、「必ずしも」休業手当の支払義務が使用者に生じるわけではない。ということだけはわかります。

❷感染が疑われる労働者を休業させる場合

新型コロナウイルスへの感染が疑われるが、職務継続は可能な労働者を会社の自主判断により休業させた場合は、休業手当の支払義務が生じます。

なお、新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、使用者の責に帰すべき事由には該当しません。

🔎 新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

2.休業手当の計算方法

つぎに、休業手当の支払義務が生じた場合の休業手当の計算方法について確認しましょう。

休業手当の条文規定を、改めて確認します。

~労働基準法第26条~
(休業手当)
第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

休業手当の額は、「平均賃金の100分の60以上」となります。

平均賃金の計算方法は、労働基準法第12条に規定されています。

~労働基準法第12条第1項~
第12条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によって計算した金額を下つてはならない。
一 賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60
二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額

2-1.原則的な計算方法

原則の計算式は、以下となります。

平均賃金 = 算定事由発生日以前3か月間の賃金総額 ÷ 算定事由発生日以前3か月間の総日数(総暦日数)

ここで、用語の定義をひとつずつ確認します。

「算定事由発生日」とは、いわゆる起算日のこと。休業手当における算定事由発生日(起算日)は、その休業日(休業が2日以上の期間にわたる場合は、その最初の日)です。

「以前3か月間」とは、算定事由発生日は含めず、その前日から遡って3か月。賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日から遡って3か月です。賃金締切日に算定事由が発生した場合は、その前の締切日から遡及します(昭和24年7月13日基収2044号)。また、賃金ごとに賃金締切日が異なる場合は、それぞれの賃金締切日ごとに遡及することとなります(昭和26年12月27日基収5926号)。

「賃金総額」とは、原則、算定期間中に支払われる賃金の全てが含まれます。6か月通勤定期なども1か月ごとに支払われたものとみなして算定することとなります。なお、臨時に支払われた賃金や賞与等の3か月を超える期間ごとに支払われたものは賃金総額には含みません(労基法第12条第4項)。

原則の平均賃金の計算方法による休業手当額を具体例で確認しましょう。

― ― ― 計算例 ― ― ―

・月給者の常用労働者
・賃金締切日=毎月15日
・平均賃金算定事由発生日=7月1日
・休業期間=5日

↓ クリックして拡大 ↓

①総日数=92日
②賃金総額=720,000円
③平均賃金=7,826.08円
④休業手当=23,478円

2-2.例外的な計算方法

賃金が日給制、時間給制、出来高払制で支払われる場合、又は、私傷病により欠勤している場合等は、平均賃金が低額になることがあるため、最低保障額が定められています。

例外の計算式は以下となります。

最低保証額 = 3か月間の賃金総額 ÷ 3か月間の実労働日数 × 60%

例外の平均賃金の計算方法の具体例は、以下のパンフレットを参照ください。

🔎 平均賃金の計算【PDF】|大阪労働局

https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/var/rev0/0109/4772/280823-1.pdf

なお、休業手当は賃金のかわりとして支給されるものとなりますので、社会保険上の報酬、労働保険上の賃金、税法上の給与所得(課税所得)のいずれにも該当することとなります。

3.休業手当の補償制度

さいごに、景気の変動により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主を助成する雇用調整助成金の制度について確認します。

雇用調整助成金は、雇用保険法第62条に規定された雇用安定事業として行われる制度です。

企業が負担している雇用保険二事業の保険料が財源です。

~雇用保険法第62条第1項第一号~
(雇用安定事業)
第62条 政府は、被保険者、被保険者であつた者及び被保険者になろうとする者(以下この章において「被保険者等」という。)に関し、失業の予防、雇用状態の是正、雇用機会の増大その他雇用の安定を図るため、雇用安定事業として、次の事業を行うことができる。
一 景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合において、労働者を休業させる事業主その他労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講ずる事業主に対して、必要な助成及び援助を行うこと。

主な受給要件としては、直近3か月の生産量や売上高などが前年同期と比べて10%以上減少していること、実施する休業等が労使協定に基づくものであること等があります。

休業手当に対する助成額は、休業を実施した場合の休業手当額に大企業は2分の1、中小企業は3分の2を乗じた額となります。なお、対象労働者1人あたり8,330円が上限です。(令和2年3月1日現在)。

新型コロナ感染症の特例措置を受けて―――

助成率が、中小企業5分の4、大企業3分の2(1人も解雇しなければ中小企業は10分の9、大企業は4分の3まで支援)に引き上げられました(令和2年3月28日厚生労働省報道発表)。

特例措置の詳細は、以下のページを参照ください。

雇用調整助成金制度の詳細は、厚生労働省のパンフレットを参照しましょう。

🔎 雇用調整助成金ガイドブック(令和2年3月1日現在版)【PDF】|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/000609092.pdf

コロナ支援策をまとめた事業主向けのリーフレットは以下です。

🔎 コロナ支援策をまとめた事業主向けのリーフレット【PDF】|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000612981.pdf


最後にまとめ。

・労働者は、職務遂行可能であるにもかかわらず自宅待機を命じられた場合は、通常の賃金の6割以上の額を休業手当として受給することができる。

・使用者は、やむを得ず事業休止の措置等を行う場合は、労働者に休業手当を支給するが、所定の要件を満たすことで、国から雇用調整助成金を受給することができる。

・国は、所定の要件を満たした企業に雇用調整助成金を支給することで、失業を予防し、雇用の安定を実現することができる。

以上

written by sharoshi-tsutomu

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