使用者の指揮命令下とは?労働時間該当性を時系列で理解する5つの事例

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002_使用者の指揮命令下とは?労働時間該当性を時系列で理解する5つの事例
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平成29年1月20日、厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を公表しました。

労働時間は労働基準法第32条に規定されていますが、労働時間の定義までは示されていません。

ガイドラインでは、判例を踏まえ、次の通り労働時間の考え方が示されました。

「労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。」

労働時間該当性の判断にあたっては、使用者の指揮命令下に置かれているか否かを判断することとなります。

今回は判例や通達の具体的な5つの事例の労働時間該当性の判断理由を確認することで理解を深めることとします。

事例1:始業前の開店準備

(事例)

始業時刻が午前8時35分の銀行において、男子行員のほとんどは8時過ぎまでに出勤し開店準備するなどしていた。また始業時刻前に事実上参加を義務付けられている融得会議が開催されていた。

(労働時間の該当性判断)

   労働時間に該当する  

(判例・通達)

・判例:京都銀行事件 大阪高等裁判所 平成13年6月28日

男子行員のほとんどが8時過ぎころまでに出勤していたこと、銀行の業務としては金庫を開きキャビネットを運び出し、それを各部署が受け取り、業務の準備がなされるところ、金庫の開扉は8時15分以前にはなされていたと推認される。また、融得会議については、男子行員については事実上出席が義務付けられている性質の会議と理解できることなどを総合すると、午前8時15分から始業時刻までの間の勤務については、被控訴人の黙示の指示による労働時間と評価でき、原則として時間外勤務に該当すると認めるのが相当である。また、融得会議など会議が開催された日については、それが8時15分以前に開催された場合には、その開始時間以降の勤務はこれを時間外勤務と認めるのが相当である。

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男子行員のほとんどが始業前に出勤し金庫を開き業務準備をしていたことから、本件は使用者の黙示の指示による労働時間と評価できるとされました。

8時15分に金庫が開かれ、事実上出席が義務付けられている会議が開催されていたことから、金庫の開扉時刻(8時15分)か会議開催時刻のいずれか早い方から始業時刻までの時間を労働時間とすることと結論づけられました。

事例2:始業前の業務準備行為

(事例)

造船現場作業に従事していた者は、会社から材料庫等からの副資材や消耗品等の受出しを午前ないし午後の始業時刻前に行うことを義務付けられていた。また、鋳物関係の作業に従事していた者は、粉じんが立つのを防止するため、上長の指示により、午前の始業時刻前に月数回散水をすることを義務付けられていた。

(労働時間の該当性判断)

   労働時間に該当する  

(判例・通達)

・三菱重工業長崎造船所事件 最高裁判所第一小法廷 平成12年3月9日

始業前の業務準備行為が使用者に義務付けられていたことから、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるとして、労働基準法第32条の労働時間に該当するとされました。

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本件で労働時間の定義は明確化されました。

労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まると結論づけられました。

始業前の業務準備行為は、使用者に義務付けられていたことから、本件は労働時間にあたるとされました。

事例3:昼食時間の来客当番

(事例)

工場の事務所において昼食時間に来客当番をさせた場合は労働時間となるか。

(労働時間の該当性判断)

   労働時間に該当する  

(判例・通達)

・ 昭和23年4月7日基収第1196号

休憩時間に来客当番として待機させていれば、それは労働時間である。

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当番として使用者から指示された事例であり、労働時間に該当します。

いわゆる手待時間として労働時間性が肯定されるのは、使用者から職務上の義務を課されているか否かが争点となります。

職務上の義務が課されていないとされた裁判例としては「日本貨物鉄道事件:東京地裁平成10年6月12日判決」があります。判決理由では「使用者が労働者に職務上の義務を課していないのであれば、労働者が休憩時間中に自発的に労務に相当する活動を行っても、当該休憩時間全部が手待時間となるものではない。」と判示されています。

事例4:就業時間外の教育研修

(事例)

使用者が自由意思によって行う労働者の技能水準向上のための技術教育を所定時間外に実施する場合、労働基準法上の労働時間とみなされ労働基準法第36条の適用を受けるか。 

(労働時間の該当性判断)

   労働時間に該当しない  

(判例・通達)

・昭和26年1月20日 基収第2875号

労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない(=労働時間にはならない)。

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教育研修が労働時間とされるのは実質的に使用者から出席の強制がある場合となります。

出席の強制がある場合とは、①就業規則上の制裁等の不利益な取扱いが有る、②教育研修内容と業務との関連性が強く不参加により業務に具体的な支障が生じる等があげられます。

事例5:夜勤中の仮眠時間

(事例)

ビル管理会社の従業員が夜間業務に従事する場合に、仮眠時間中であっても仮眠室において監視又は故障対応が義務付けられ、警報が鳴る等した場合は直ちに所定の作業を行うこととされていた。仮眠時間中に警報が鳴った場合は、ビル内の監視室に移動し、警報の種類を確認し、警報の原因が存在する場所に赴き、警報の原因を除去する作業を行うなどして対応をし、また、警備員が水漏れや蛍光灯の不点灯の発見を連絡したり、工事業者が打ち合せをするために、仮眠室に電話をしてきたような場合も、現場に行って補修をする等の対応をすることとされていた。 

(労働時間の該当性判断)

   労働時間に該当する  

(判例・通達)

・大星ビル管理事件 最高裁判所第一小法廷 平成14年2月28日

仮眠時間中であっても、必要に応じて、突発作業、継続作業、予定作業に従事することが想定され、警報を聞き漏らすことは許されず、警報があったときには何らかの対応をしなければならないものであるから、何事もなければ眠っていることができる時間帯といっても、労働からの解放が保障された休憩時間であるということは到底できず、本件仮眠時間は実作業のない時間も含め、全体として使用者の指揮命令下にある労働時間というべきである。

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労働時間からの解放が保障されていない仮眠時間は労働時間とされます。

休憩時間の定義は、通達(昭22年9月13日発基17号)で「単に作業に従事しない手持時間を含まず労働者が権利として労働から離れることを保障されて居る時間の意であって、その他の拘束時間は労働時間として取り扱うこと。」と示されています。


5つの事例から「使用者の指揮命令下」に置かれているか否かの判断ポイントは次の3つです。

・使用者からの暗示又は黙示の義務付け

・業務上の必要性と関連性

・場所的な拘束

以上

written by syaroshi-tsutomu

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