2010年4月1日から時間単位の年次有給休暇制度が法施行されました。
時間単位の年次有給休暇制度とは、原則1日単位の年次有給休暇を、労使協定の締結により年5日の範囲内で、時間単位での取得を可能とする制度です。
厚生労働省の調査によると、時間単位年休制度の導入率はわずか2割。
導入が進展しない理由の一つが、事務の煩雑さです。
日数管理だけでも煩雑な年休管理に時間単位の要素が加わることで更に煩雑となり、事務負担は確実に増加します。
一方で、子育て中の労働者など時間単位で年休を取得できるメリットは大きく、従業員満足の観点では導入を検討する価値はあるでしょう。
今回は、時間単位年休の導入に際し締結する労使協定の締結事項と、導入後の運用上のの留意点をQ&A形式で確認することとします。
1.労使協定締結事項
時間単位年休の導入には過半数組合、過半数組合がない場合は過半数代表者との間で労使協定の締結が必要です。
時間単位年休制度は、労働基準法第39条第4項に規定されています。
条文を確認しましょう。
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、第一号に掲げる労働者の範囲に属する労働者が有給休暇を時間を単位として請求したときは、前三項の規定による有給休暇の日数のうち第二号に掲げる日数については、これらの規定にかかわらず、当該協定で定めるところにより時間を単位として有給休暇を与えることができる。
~労働基準法第39条第4項~
一 時間を単位として有給休暇を与えることができることとされる労働者の範囲
二 時間を単位として与えることができることとされる有給休暇の日数(五日以内に限る。)
三 その他厚生労働省令で定める事項
第三号のその他厚生労働省令で定める事項は、労働基準法施行規則第24条の4に規定されています。
第二十四条の四 法第三十九条第四項第三号の厚生労働省令で定める事項は、次に掲げるものとする。
~労働基準法施行規則第24条の4~
一 時間を単位として与えることができることとされる有給休暇一日の時間数(一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異なる場合には、一年間における一日平均所定労働時間数。次号において同じ。)を下回らないものとする。)
二 一時間以外の時間を単位として有給休暇を与えることとする場合には、その時間数(一日の所定労働時間数に満たないものとする。)
労働基準法第39条第4項、労働基準法施行規則第24条4の規定から、次の4つの事項が労使協定の締結事項となります。
【1】時間単位年休の対象者の範囲
対象となる労働者の範囲を定めます。
「事業の正常な運営」との調整を図る観点から、一部の者を対象外とすることも可能です。
例えば、工場のラインであれば、各工程に人が揃っていなければ製品を作ることに支障をきたしますので事業の正常な運営を妨げることとなりますので、除外することは問題ありません。
一方で、育児を行う労働者に限るなど、取得目的によって対象範囲を定めることは認められません。
【2】時間単位年休の日数
「5日以内」の範囲で定めます。
まとまった日数の休暇を取得するという年次有給休暇制度本来の趣旨にかんがみ、時間単位年休の日数には上限が設けられています。
5日以内とは、1年間の年次有給休暇の日数のうちの5日以内です。
比例付与により5日に満たない日数の年休を付与される労働者については、当該比例付与される日数の範囲内で定めることとなります。
【3】時間単位年休1日の時間数
1日分の年次有給休暇が何時間分の時間単位年休に相当するかについては、「当該労働者の所定労働時間数」を基に定めます。
日によって所定労働時間数が異なる場合には1年間における1日平均所定労働時間数となり、1年間における総所定労働時間数が決まっていない場合には所定労働時間数が決まっている期間における1日平均所定労働時間数となります。
なお、1日の所定労働時間に時間に満たない端数がある場合は時間単位に切り上げることが必要です。
例えば、1日の所定労働時間が7時間30分で5日を時間単位年休の取得可能日数とする場合は、時間未満の30分を切り上げて1日8時間とし、8時間に5日を乗じた40時間分が時間単位年休となります。
7時間30分に5日を乗じて37時間30分としてから、時間未満を切り上げ38時間とすることはできません。
【4】1時間以外の時間を単位とする場合の時間数
1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数(2時間、3時間など)を定めます。
ただし、1日の所定労働時間を上回ることはできません。
💡 時間単位年休の就業記載への記載例
時間単位年休制度は、就業規則への規定も必要です(労基法第89条第1項)。
規定内容は労使協定で定めた事項と同様の内容を定めることで差し支えありません。
厚生労働省のモデル就業規則を、参考にしましょう。
(年次有給休暇の時間単位での付与 )
~厚生労働省モデル就業規則第24条~
第24条 労働者代表との書面による協定に基づき、前条の年次有給休暇の日数のうち、1年について5日の範囲で次により時間単位の年次有給休暇(以下「時間単位年休」という。)を付与する。
(1)時間単位年休付与の対象者は、すべての労働者とする。
(2)時間単位年休を取得する場合の、1日の年次有給休暇に相当する時間数は、以下のとおりとする。
① 所定労働時間が5時間を超え6時間以下の者…6時間
② 所定労働時間が6時間を超え7時間以下の者…7時間
③ 所定労働時間が7時間を超え8時間以下の者…8時間
(3)時間単位年休は1時間単位で付与する。
(4)本条の時間単位年休に支払われる賃金額は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間当たりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額とする。
(5)上記以外の事項については、前条の年次有給休暇と同様とする。
2.運用留意点Q&A
時間単位年休の運用上留意点について、Q&A形式で確認します。
【Q1】時間単位年休の時季変更権について
時間単位年休についても日単位の通常の年休と同様に使用者は時季変更権を行使できますか。
事業の正常な運営を妨げる場合は、使用者は時季変更権を行使できます。
時季変更権とは、労働者の請求した時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は、休暇を他の時季に変更して与えることです。
使用者は時間単位年休についても時季変更権を行使することはできますが、時間単位の年休を日単位に変更する、日単位の年休を時間単位の年休に変更することはできません。
【Q2】時間単位年休と年5日の年休取得義務について
時間単位年休の取得時間の合計を年5日の年休取得義務の日数に含めることはできますか。
時間単位年休は年5日の年休取得義務の対象に含めることはできません。
2019年4月から、全ての企業において、使用者は年10日以上の年休が付与された労働者に対して、年5日の年休を取得させることが義務化されました。
時間単位年休の取得は、年5日の年休取得義務の日数にはカウントされません。
時間単位で年5日分の年休取得を積み重ねても、法要件は満たしませんので、留意しましょう。
【Q3】時間単位年休を取得できる部署からできない部署へ異動した場合について
時間単位年休を取得できる部署からできない部署へ異動した場合の残余の時間の取扱いは。
異動の際に日単位に切り上げる措置とすることが望ましい取扱いです。
労働者の年休取得の権利が阻害されないように、異動の際は日単位に切り上げる等の措置を労使の話し合いにより定めておくことが望まれます。
【Q4】1年の途中で所定労働時間が変更された場合について
1年の途中で1日の所定労働時間が変更された場合の残日数に応じた時間の取扱いは。
変更後の所定労働時間により取得可能時間の見直しを行うこととなります。
日単位による残日数が1日の何時間に当たるかは、変更後の所定労働時間によることとなります。
日単位に満たない時間単位の残時間は所定労働時間の変動に比例して時間数を変更することが必要です。
(例)
・所定労働時間 8時間から6時間に変更
・時間単位年休残(変更前)3日(×8時間=24時間)と4時間
↓
・時間単位年休残(変更後)3日(×6時間=18時間)と3時間(4時間×6÷8)
【Q5】時間単位年休の中抜け利用について
いわゆる中抜け時間に時間単位年休を取得することはできますか。
中抜け時間に時間単位年休を取得することはできます。
時間単位年休は労使協定で「事業の正常な運営を妨げる」場合についてのみ取得を制限することができますので、以下のような理由による制限を行うことは認められません。
・労使協定において時間単位年休を取得できない時間帯を定めておくこと
・1日において取得できる時間数や回数を制限すること
・所定労働時間の中途に取得することを制限すること(いわゆる「中抜け」の禁止)
所定労働時間の中途に取得することを制限する「中抜けを禁止」することが「禁止」されています。
【Q6】時間単位年休の次年度繰り越しについて
時間単位年休の未取得時間は次年度に繰り越しされますか。
前年度からの繰り越しがある場合であっても、当該繰り越し分も含めて5日以内となります。
当該年度に取得されなかった年次有給休暇の残日数・時間数は、次年度に繰り越されることとなりますが、当該次年度の時間単位年休の日数は、前年度からの繰り越し分も含めて5日の範囲内となります。
【Q7】時間単位年休の計画年休への組込について
時間単位年休の取得を計画年休の計画として組込むことはできますか。
時間単位年休を計画的年休付与の対象とすることはできません。
計画年休とは、年次有給休暇の付与日数のうち5日を除いた残りの日数について、労使協定を締結することにより、計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度です(労基法第39条第6項)。
時間単位年休は労働者の請求した時季に時間単位年休を与えるものですので、計画年休の対象とすることはできません。
最後にまとめ。
・時間単位年休は子育て世代の労働者などにメリットのある制度である。
・時間単位年休の導入には労使協定の締結が必要となる。
・時間単位年休の導入後は運用管理の留意点が多々ある。
以上
written by sharoshi-tsutomu