台風で労働者が出社困難な場合の使用者の賃金支払義務と安全配慮義務

今月、関東を台風15号が直撃しました。JR等の鉄道各社は始発から計画運休。運転再開後、駅は多くの会社員であふれました。

駅に並んだほとんどの会社員に共通していること。それは、会社から自宅待機の指示がなかった――ことでしょう。

今回は台風で出社が困難な場合の会社(以下、使用者)の賃金支払義務と安全配慮義務について確認します。

1.賃金支払義務

台風で出社ができない場合や遅刻して出社した場合はノーワークノーペイの原則により、使用者が欠勤や遅刻による不就労控除を行うことは問題ありません。使用者は賃金支払義務を負いません。

それでは使用者が「自宅待機」を命じた場合はどうでしょう。

自宅待機は「高度に労働から解放された時間」であり労働時間には該当しません(大道工業事件・東京地裁平成20年3月27日判決)。よって、自宅待機の時間も使用者は賃金支払義務を負いません。

ここで労働基準法第26条の休業手当についても確認します。

↓↓ 労働基準法第26条 ↓↓

(休業手当)
第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

休業手当の趣旨は、使用者に帰責事由のある休業について、使用者の負担において労働者の生活を一定限度で保障しようとすることを趣旨としています。

台風は不可抗力で使用者に帰責事由はありませんので、台風で事業の正常な運営ができない場合、使用者は休業手当の支払義務を負いません。

なお、不可抗力とは①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。

🔎東日本大震災に伴う労働基準法等に関するQ&A(第3版)|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/koyou_roudou/2r98520000017f2k.html

Q1-4
今回の地震で、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け労働者を休業させる場合、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たるでしょうか。
A1-4
労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。ただし、天災事変等の不可抗力の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、(1)その原因が事業の外部より発生した事故であること、(2)事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。今回の地震で、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果、労働者を休業させる場合は、休業の原因が事業主の関与の範囲外のものであり、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故に該当すると考えられますので、原則として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないと考えられます。

しかしながら、事業場が台風の影響を受けず事業の正常な運営に支障がない状態であるにもかかわらず、出社可能な労働者まで自宅待機とした場合は、休業手当の支払義務を負う可能性があります。

各人の通勤状況を勘案し、多少の柔軟性を持たせた指示をすることは必要でしょう。

「始業時刻までに通勤手段を確保できない者は出勤に及ばず。」

2.安全配慮義務

安全配慮義務は労働契約法第5条に規定されています。

↓↓ 労働契約法第5条 ↓↓

(労働者の安全への配慮)
第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働契約法の施行にかかる通達で、用語の解釈をあわせて確認します。

↓↓ 平成24年8月10日基発第810002号 ↓↓

(1) 趣旨
ア 通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労働に従事するものであることから、判例において、労働契約の内容として具体的に定めずとも、労働契約に伴い信義則上当然に、使用者は、労働者を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っているものとされているが、これは、民法等の規定からは明らかになっていないところである。
このため、法第5条において、使用者は当然に安全配慮義務を負うことを規定したものであること。
イ これについては、次の裁判例が参考となること。
○ 陸上自衛隊事件(最高裁昭和50年2月25日第三小法廷判決。最高裁判所民事判例集29巻2号143頁)
○ 川義事件(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決。最高裁判所民事判例集38巻6号557頁)
(2) 内容
ア 法第5条は、使用者は、労働契約に基づいてその本来の債務として賃金支払義務を負うほか、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に安全配慮義務を負うことを規定したものであること。
イ 法第5条の「労働契約に伴い」は、 労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に、使用者は安全配慮義務を負うことを明らかにしたものであること。
ウ 法第5条の「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれるものであること。エ 法第5条の「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではないが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められるものであること。
なお、労働安全衛生法をはじめとする労働安全衛生関係法令においては、事業主の講ずべき具体的な措置が規定されているところであり、これらは当然に遵守されなければならないものであること。

安全配慮義務は「労働契約に伴い使用者の付随的義務」として当然に生ずることとなります。

裁判例においても使用者の安全配慮義務は自然災害に対しても及ぶものと判示されています。

東日本大震災における津波被災事件では「災害発生時における情報収集の懈怠という安全配慮義務違反が認められる」とし学校側の安全配慮義務違反が認められた判決があります( 平成25年9月17日仙台地方裁判所)。

一方で、通勤時間は使用者の指揮命令下に置かれた時間ではありませんので、使用者の安全配慮義務は原則としては及ばないと考えられます。

しかしながら、避難勧告や避難指示がでている状況下における出社命令により、労働者が通勤途上で負傷した場合、予見可能性が認められれば、使用者の安全配慮義務違反を問われる可能性は否定できません。

労働者各人の居住状況は異なりますので、使用者は各人の状況を勘案した連絡をすることが望ましいでしょう。

「安全な通勤手段を確保できない者は出勤に及ばず。」


最後にまとめ。

1.使用者は台風で労働者が就労できない時間について賃金を支払う義務はない。

2.使用者が台風で自宅待機を命じた場合で、事業の正常な運営に支障がなく労働者が出社可能な状況であるときは、使用者は休業手当の支払義務を負う可能性がある。

3.労働者が安全を確保できないにもかかわらず使用者の出社命令により労働者が負傷した場合、使用者は安全配慮義務を問われる可能性がある。

4.それでも、どうしても出社が必要な人のために、使用者はタクシーや前泊の臨時措置を発することが望ましい。

以上

written by sharoshi-tsutomu