無期転換にデメリット?有期雇用者の無期転換ルールと無期転換しない理由

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2013年4月より、同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約が5年を超える労働者の無期転換ルールが法制化されています。

法制趣旨は、有期雇用者の雇止めの不安を解消し、雇用の安定化を図ること。

厚生労働省の調査(令和2年有期労働契約に関する実態調査・事業所調査)によると、無期転換申込権が生じた人の権利行使の割合は、27.8%となっており、3割程度です。

有期雇用者の雇用安定化の制度で、労働者には不利益のない制度でありながら、過半数の人が、無期転換申込権を行使していないのが、実態です。

今回は、有期雇用者の無期転換ルールについておさらいするとともに、無期転換が進まない理由を厚生労働省の調査結果を参照し確認します。

1.無期転換ルールとは

無期転換ルールは、労働契約法第18条に規定されています。

(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2 略

(労働契約法第18条)

条文に規定されている①無期転換の対象者・②転換申込権の行使・③転換後の労働条件の3つについて、詳細を確認します。

1-1.無期転換の対象者

無期転換の対象者について、確認します。

同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者

条文の用語の定義を確認します。

「同一の使用者」とは、労働契約の締結主体が同一であることをいい、法人であれば法人単位で、個人事業主であれば当該個人事業主単位で判断されます。

「二以上の有期労働契約」とは、更新が1回以上行われている状態、すなわち、反復更新のこと。契約期間が5年を超える有期労働契約で更新が1回もされていない場合は、反複更新に該当しないため対象外です。

結論、無期転換の対象者は、同一の使用者に、反複更新され、通算契約期間が5年を超える労働者が対象となります。

厚生労働省の無期転換ルールのサイトで具体例を参照しましょう。

🔎 無期転換ルールについて|厚生労働省

1-2.無期転換申込権の行使

無期転換の行使時期と行使方法について、確認します。

当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたとき

無期転換申込権の行使の時期は、通算契約期間が5年を超える有期労働契約の契約期間の初日から当該有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に行使することができます。

無期転換申込権の名前の通り、無期転換するためには、無期転換の対象となる有期雇用者が使用者に申込をする必要があります。

無期転換申込権は自動付与されますが、無期転換の成立は、あくまでも、対象者の申込により成立する制度です。

🔎 無期労働契約転換申込書・受理通知書の様式例【PDF】|厚生労働省

1-3.無期転換後の労働条件

無期転換後の労働条件について、確認します。

当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

無期転換後における労働条件は、契約期間以外は、無期転換前と同一の労働条件が、原則です。

ただし、「別段の定め」がある場合は、使用者は、労働条件を変更することは可能です。

「別段の定め」とは、労働協約、就業規則及び個々の労働契約(個別合意)のことです。

2.無期転換しない理由とは

無期転換ルールについて確認したところで、無期転換が進まない理由を確認します。

2-1.無期転換ルールを知らない(周知不足)

無期転換は労働者からの申込により成立します。

そのため、労働者が制度を知らなければ、無期転換申込権を行使することができません

労働者に無期転換申込権が発生しても、現時点(2023年3月)では、使用者に労働者への通知義務はありません。

使用者から通知されなければ、無期転換の申込を労働者から能動的に行うことは気がひけます。

厚生労働省も制度周知を課題としており、使用者への通知義務化へ動いています。

労働条件分科会の論点整理において、「無期転換申込権が発生する契約更新時に、労働基準法の労働条件明示事項として、転換申込機会と無期転換後の労働条件について、使用者から個々の労働者への通知を義務づけることとしてはどうか」と方向性が示されています。

詳細は、以下のサイトの資料を確認しましょう。

🔎 第177回労働政策審議会労働条件分科会資料|厚生労働省

2-2.労働条件が変わらない(メリットがない)

無期転換後における労働条件は、契約期間以外は、無期転換前と同一の労働条件が、原則です。

契約期間が無期になるだけで、その他の労働条件は何ら変わらないため、無期転換する必要性がないと感じている人が多数いると想定されます。

厚生労働省の調査(令和3年有期労働契約に関する実態調査・個人調査)では、無期転換を希望しない理由として、「契約期間だけ無くなっても意味がない」との回答が20.5%となっており、契約期間が無期となることのみでは、メリットを感じていない人が多数います。

2-3.労働条件を変えたくない(デメリットが有る)

労働条件が変わることに対する不安(デメリット)を感じている人もいます。

厚生労働省の調査(令和3年有期労働契約に関する実態調査・個人調査)では、労働条件を変えることを敬遠している回答の割合は以下です。

責任や残業等、負荷が高まりそう」 15.8%

辞めにくくなる(長く働くつもりはない)」 15.9%

現状に不満はない」 30.2%

無期転換が進まない理由は、労働条件を変えることをデメリットを感じている人が多数いることも、大きな要因です。

使用者は、労働協約・就業規則・個別合意により、労働条件を変更することが可能ですので、仕事内容や配置転換も想定されます。

辞めにくくなるという点は、誤解があります。

1年を超えない有期雇用契約の場合、原則として、やむ得ない事由がない限り、期間途中での退職(契約解約)はできません。

一方で、無期雇用であれば、いつでも退職を申し出することが可能です。

いわゆる「退職の自由」です。

民法の定めでは、2週間の予告期間をおけば、退職申し出から2週間が経過すれば退職は成立することになります。

自由に辞めたいと思う人こそ、無期転換するメリットがあります。


最後にまとめ。

・無期転換は、有期雇用者が、使用者に、無期転換の申込をしないと、成立しない。

・無期転換後の労働条件は、転換前と、同一が原則。

・無期転換後の労働条件は、就業規則や個別合意により、変更することは可能。

以上

written by syaroshi-tsutomu

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