固定残業代の制度と計算方法がザックリわかる9つの質問

1003_相談員はじめの9つの質問
006_固定残業代の制度と計算方法がザックリわかる9つの質問
この記事は約6分で読めます。

固定残業代とは現実の残業時間にかかわらず一定額を残業代として毎月支給する制度です。

固定残業代の支給により残業が青天井で許容され、残業代が免除される制度ではありません。

現実の残業時間による残業代が、固定残業代を超過した場合は追加支給が必要です。

固定残業代の法令規定はありません。混同されがちな「みなし労働時間制」(※)とは異なる制度です。

今回は9つの質問で、固定残業代の制度と計算方法の理解を深めましょう。

(※)「みなし労働時間制」…事業場外のみなし労働時間制(労基法38条の2)、専門業務型裁量労働制(労基法38条の3)、企画業務型裁量労働制(労基法38条の4)

Q1.そもそも固定残業代のメリットは何ですか。

A1.

労働者の固定賃金が増加すること、労働生産性の向上が期待できることがメリットです。

残業時間にかかわらず固定残業代の支給を受けられることから、労働者には残業時間を減らすインセンテンティブが働きます。

仮に30時間相当の残業代を支給する場合、残業を30時間未満とすることで、労働者は金銭メリットを享受できます。

固定残業代を超過した場合は残業代を支給することとなりますので、当然、労働時間管理は必要です。

事務負担の軽減と総額人件費の減少という面では大きな効果は見込めません。

Q2.固定残業代の導入にあたり実施すべきことは何ですか。

A2.

以下の3つのことを実施します。

・制度の設計

・規則の制定

・労働者の同意

Q3.制度設計で決定することは何ですか。

A3.

固定残業代の対象者と固定額を決定します。

例えば、非管理職に毎月30時間相当の割増賃金を支給すると決定することです。

現実に固定額を超過した場合の追加支給にあたっては、固定額と比較する労働時間(割増賃金)の範囲も決定します。

時間外労働(125%)・法定休日労働(135%)・深夜労働(25%)等、比較範囲を決定する必要があります。

Q4.何時間分の残業代でも設定することは可能ですか。

A4.

法の規制はありません。

固定残業代を含めない基本給が、最低賃金を超える必要はあります。

また、使用者の安全配慮義務(労契法5条)の面からも、過労死ライン(※)を超える設定がないよう留意しましょう。

(※)過労死ライン…脳・心臓疾患の認定基準(平成13年12月12日基発第1063号)により、加重負荷の労働時間の基準として、「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること」とされている。

Q5.基本給に30時間の残業代を含める場合の固定残業代はどのように計算すればよいですか。

A5.

基本給300,000円、普通残業の割増率を1.25倍、月間所定労働時間160時間とした場合、固定残業代は56,960円となります。

次の計算式を参照ください。

(a) 時給(割増なし) 300,000円÷(160時間+30時間×1.25)=1,519円 (小数点未満切上げの場合)

(b) 基本給(固定残業代含めない額)  1,519円×160時間=243,040円

(c) 固定残業代 300,000円-243,040円=56,960円(※)
時給より算出の場合は、1,519円×1.25倍×30時間=56,962.5円

(※) 基本給と固定残業代の端数処理については労働者が有利となる固定残業代が少なくなるよう計算している。100円単位にする等、端数処理は各企業において任意に定めることで差し支えありません。

Q6.固定残業代は割増賃金の基礎額に算入する必要はありますか。

A6.

固定残業代が残業代(時間外手当)であることが明確であれば算入する必要はありません。

🔎 定額残業手当を超えた場合の割増賃金の計算方法はどのようにするか|東京労働局

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/yokuaru_goshitsumon/tinginnokeisan/q1.html

Q7.規則を制定する上でのポイントを教えてください。

A7.

ポイントは3つです。

①基本給と固定残業代を明確に区分し、何時間分の残業を固定残業代とするのか根拠を記載すること

②現実の残業時間による残業代が、固定残業代を超過する場合はその差額を支給する旨記載すること

③基本給の減額により、退職金規程等のその他の規則・規程への影響を考慮すること
なお、規則化した基本給と固定残業代は、労働契約書(労働条件通知書)、給与明細書、賃金台帳等の文書においても、明確に区別することが必要です。

Q8.固定残業代を導入するにあたり労働者からの同意は必要ですか。

A8.

個々の労働者から書面による同意を得ることが望ましいです。

固定残業代の導入は労働条件の変更であり、固定残業代を除く基本給が減額されることとなるのであれば不利益変更です。

Q9.固定残業代に関する裁判の争点を教えてください。

A9.

固定残業代を超過した場合の超過分の支払義務、基本給と固定残業代を明確に区別することの必要性が判示されています。

・セールスマンに対する定額の時間外割増賃金を支払う制度につき、現実の時間外労働に対する割増賃金額が定額の範囲内のものであれば労基法37条に違反しないが、前者が後者を上回るときはその分を使用者に請求できるとされた事例(関西ソニー販売事件 大阪地裁・昭63.10.26)。

・通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とが判別することができないとされた事例(テックジャパン事件 最高裁・平成24年3月8日)。

1,700万円の高額給与の医師であっても割増賃金部分が判別できないのであれば、固定残業代制は認められず割増賃金の支払が命じられた裁判例もあります。

🔎 医療法人社団康心会事件|裁判所

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86897


固定残業代の導入にあたっては労働者側のメリットも考慮し制度設計することが必要でしょう。

あわせて、変形労働時間制、フレックスタイム制、みなし労働時間制といった、法で規定された労働時間制度と比較し、どのような労働時間制度が最適となるか検討・検証することが必要です。

以上

written by sodanin-hajime

タイトルとURLをコピーしました