令和2年4月7日、東京・神奈川・千葉・埼玉・大阪・兵庫・福岡の7都府県に「緊急事態宣言」が発令されました。
これまでは在宅勤務を推奨にとどめていた会社も、「原則、在宅勤務」に大きく舵が切られました。
在宅勤務がこれまで普及しなかった理由の一つは、労働時間の管理が難しいことが挙げられます。
今回は、在宅勤務における労働時間の管理に着目し、労働時間を管理する会社としない会社の2つの視点で運用上の留意点を確認することとします。
1.労働時間を管理する会社
はじめに、何が何でも労働時間は管理するという会社の留意点です。
労働基準法に規定されている労働時間制度は、在宅勤務であることによる例外を認めていません。
通常の労働時間制度に基づき在宅勤務を行う場合であれば、使用者は、労働時間の把握・算定義務を負うこととなります。
具体的には、厚生労働省の以下のガイドラインに基づき、適切に労働時間管理を行うことが求められます。
🔎 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html
1-1.始終業時刻の把握
ガイドラインでは「使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること」を求めています。
始終業時刻の把握方法として、3つ挙げられています。
在宅勤務の場合は、当然、現認はできませんので、1つ目は×です。
客観的な記録の方法としては、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録が例示されています。
クラウドを利用したWEB勤怠システムを利用している会社や、PCのログイン時刻(出勤)やログオフ時刻(退勤)を自動取得している会社は在宅勤務であっても、問題ないでしょう。
就業場所に備え付けのタイムカードやICカードで出退勤時刻を取得している場合は、在宅勤務では使用できませんので、×です。
現認も客観的な記録も×の会社であれば、この自己申告により始終業時刻を管理することとなります。
ガイドラインでは、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合の使用者の措置も定めていますが、長いので割愛します。
結論。
客観的に労働時間を管理するインフラが整っていない会社は、「始業時と終業時にメール又は電話で上司に報告させる」ことにしましょう。
1-2.中抜け時間の把握
在宅勤務では、労働者が業務から離れる時間が生じやすく、相当の時間を業務から離れる人も、離れざるを得ない人もいるでしょう。
中抜けする場合も始終業時刻の報告と同様に、「中抜けの開始と終了の時刻をメール又は電話で報告させる」ことが、現実的な策でしょう。
中抜け時間を、始業や終業の時刻の変更として取り扱うこと、時間単位年次有給休暇を利用させることも可能ですが、前者であれば就業規則の記載が必要となりますし、後者であれば労使協定の締結も必要です。
労働時間の管理がより煩雑となりますので、例外的な取扱いは考慮しないことで差し支えないでしょう。
1-3.休憩時間の把握
労働基準法第34条第2項では、原則として休憩時間を労働者に一斉に付与することを規定しています。
いわゆる一斉休憩の原則です。
在宅勤務者には、全く適しません。
しっかり休んでね。と労働者に伝えましょう。
1-4.残業時間の把握
一番悩ましいのが、残業時間の把握です。
使用者は本当に残業までして働く必要があるのか疑います。
労働者は本当に働いたのか疑われていると思うので、サービス残業をします。
結果、適正に労働時間は申告されず、把握もできません。
明確なルールが必要です。
具体的には、「事前許可制」&「事後報告制」の制度としましょう。
事前に許可を得ていない、事後に報告がない場合は、残業として認めないことを使用者は労働者に周知しましょう。
厚生労働省はガイドラインで、以下の①~③の全ての要件を満たす場合は、労働時間に該当しないものとして取り扱うことで差し支えないとしています。
①時間外等に労働することについて、使用者から強制されたり、義務付けられたりした事実がないこと。
②当該労働者の当日の業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合等、時間外等に労働せざるを得ないような使用者からの黙示の指揮命令があったと解し得る事情がないこと。
③時間外等に当該労働者からメールが送信されていたり、時間外等に労働しなければ生み出し得ないような成果物が提出されたりしている等、時間外等に労働を行ったことが客観的に推測できるような事実がなく、使用者が時間外等の労働を知り得なかったこと。
🔎 情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html
2.労働時間を管理しない会社
つぎは、時間管理という煩雑なことは考えず、労働時間は管理しないこととした会社の留意点です。
厚生労働省の労働時間の適正把握のガイドラインでは、労働時間の適正把握の除外労働者として以下の労働者は列挙しています。
( 労働時間の適正把握の除外者 )
(1)労働基準法第41条に定める者(いわゆる管理監督者)
(2)みなし労働時間制が適用される労働者
①事業場外で労働する者であって、労働時間の算定が困難なもの(労働基準法第38条の2)
②専門業務型裁量労働制が適用される者(労働基準法第38条の3)
③企画業務型裁量労働制が適用される者(労働基準法第38条の4)
今回は、在宅勤務者に適用する制度として最も一般的な「事業場外のみなし労働時間制」の適用要件について確認することとします。
2-1.事業場外のみなし労働時間制の適用要件
労働基準法第38条の2では、所定労働時間労働したものとみなすための要件として、以下の①・②を満たすこと求めています。
①労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合
②労働時間を算定し難いとき
①については、在宅勤務者は自宅で勤務することとなりますので、自宅は事業場ではありませんので、在宅勤務=事業場外で業務に従事することとなり、問題ありません。
問題となるのは、②の「労働時間を算定し難いとき」です。
2-2.労働時間を算定し難いときの要件
在宅勤務において、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難であるというためには、以下の①・②のいずれの要件も満たすことが必要です。
①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと。
ひとつずつ要件の詳細を確認しましょう。
まわりくどい表現ですが、これは、「使用者の指示に即応する義務がない状態」を指します。
「使用者の指示に即応する義務がない状態」とは、使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて随時具体的指示を行うことが可能であり、かつ、使用者からの具体的な指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態又は手待ち状態で待機している状態にはないことを指します。
例えば、回線が接続されているだけで、労働者が自由に情報通信機器から離れることや通信可能な状態を切断することが認められている場合や、会社支給の携帯電話等を所持していても、労働者の即応の義務が課されていないことが明らかである場合等は「使用者の指示に即応する義務がない」場合に当たります。
「具体的な指示」には、例えば、当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これら基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれません。
使用者は労働者にやることだけ伝えて、あとは細かい指示をしないこととすれば、問題ないでしょう。
2-3.事業場外のみなし労働時間制の残業時間の取扱い
事業場外のみなし労働時間制は、原則として、就業規則に定められた「所定労働時間」労働したものとみなす制度ですので、残業時間の問題は生じません。
ただし、「所定労働時間」を超えて働くことが必要な業務については、その業務を行うために「通常必要とされる時間」を働いたものとみなすことも可能です。
「通常必要とされる時間」をみなし時間として適用する会社であれば、労使協定を締結し、所轄労働基準監督署へ提出することが必要となりますので、留意しましょう。
なお、事業場外のみなし労働時間制を適用した場合であっても、深夜労働や休日労働にかかる割増賃金の支払は必要です。
深夜労働と休日労働だけは、労働時間を管理する会社と同様に、事前許可制および事後報告制とすることが必要でしょう。
最後にまとめ。
・労働時間を管理する会社
情報インフラが整っていない場合は、使用者はメールや電話により、労働者から始終業時刻等の時間を報告させ、労働時間を管理する。
残業は事前許可&事後報告制とし、労使双方で労働時間を適正に申告・管理する。
・労働時間を管理しない会社
事業場外のみなし労働時間制を採用する場合は、使用者は労働者に具体的な指示命令を行わない。
深夜労働や休日労働は行わせない。
以上
written by sharoshi-tsutomu