傷病手当金は、健康保険の被保険者が、業務外の事由により、療養のため労務に服することができないとき、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、労務に服することができない期間、支給されます(健保法第99条)。
支給期間は最長で1年6か月、支給額はおおよそ月給の3分の2に相当する額です。
2018年度の支給件数は約200万件、支給額は約3900億円にものぼります。
傷病手当金の支給事由と同一事由により他の給付金が支給される場合などは、過剰給付を防ぐため、一方の支給を行わない、又は、一方の支給を減額するという調整が行われます。
この調整のことを、併給調整といいます。
今回は、傷病手当金と他の年金や給付金との併給調整について、確認することとします。
1.給与との併給調整
社会保険制度間での併給調整の前に、傷病手当金の支給期間に、給与(報酬)が支給される場合の併給調整について確認しましょう。
傷病休職中も、低額の休職給が支給される場合などが、該当します。
傷病手当金の額より給与が少なければその差額が支給され、傷病手当金の額より給与が多ければ傷病手当金は支給されません(健保法第108条第1項)。
2.年金制度との併給調整【障害厚生年金・障害手当金・老齢年金】
年金制度との併給調整としては、障害厚生年金・障害手当金・老齢年金の3つの給付との調整があります。
年金の種類ごとに確認しましょう。
2-1.障害厚生年金
障害厚生年金とは、厚生年金加入者が在職中の傷病により一定の障害状態になった場合に支給される年金です。
🔎 障害年金|日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-01.html
傷病手当金と障害厚生年金が、同一の傷病に起因して支給される場合は、障害厚生年金が優先され、傷病手当金は支給されません(健保法第108条第3項)。
ただし、障害厚生年金(障害基礎年金も支給される場合は合算額)を360で除した日額換算額が、傷病手当金の日額より少ないときは、その差額が傷病手当金として支給されます(健保法第108条第3項ただし書)。
ポイントは、障害厚生年金と傷病手当金が同一の傷病に起因しているか、否かです。
同一の傷病に起因しないのであれば、併給調整は行われません。
2-2.障害手当金
障害手当金は、障害厚生年金3級の障害よりやや程度の軽い障害が残ったときに支給される一時金です。
傷病手当金と障害手当金が、同一の傷病に起因して支給される場合は、傷病手当金の支給累積額が障害手当金の額に達するまでは、傷病手当金は支給されません(健保法第108条第4項)。
なお、障害厚生年金と同様、同一の傷病に起因しない障害手当金と傷病手当金は、併給調整の対象外です。
2-3.老齢年金
老齢年金とは、老齢厚生年金、老齢基礎年金、退職共済年金等が該当します。
🔎 老齢年金|日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/jukyu-yoken/20150401-01.html
老齢年金との併給調整の対象となるのは、資格喪失後(退職後)の傷病手当金の継続給付のみです。
在職中の傷病手当金は、対象とはなりません。
傷病手当金の日額が老齢年金の日額換算額よりも少ない場合は、傷病手当金は支給されず、傷病手当金の日額が老齢年金の日額換算額よりも多い場合は、その差額の傷病手当金が支給されます(健康保険法第108条第5項)。
なお、老齢年金の日額換算額とは、老齢年金の額(複数の老齢年金を受給している場合はその合算額)を360で割った額です(1円未満は切り捨て)。
3.労災保険制度との併給調整【休業補償給付】
健康保険制度で支給される傷病手当金は業務「外」の傷病に関して行われ、労災保険制度で支給される休業補償給付は、業務「上」の傷病に関して行われます。
労災保険の休業補償給付と傷病手当金は法律で明文化されていませんが、報酬喪失事態となった労働者の生活保障のために支給される点では法的機能としては全く同一であり、労災保険の休業補償給付の支給により法的機能が果たされているのであれば、休業補償給付の額が傷病手当金の額に達しない場合を除き、傷病手当金は支給しないこととされています(昭和33年7月8日保険発第95号)。
休業補償給付と同一の傷病により労務不能となった場合の傷病手当金は、当然に、支給されませんし、別の原因で労災保険から休業補償給付を受けていて支給期間が重複する場合も、傷病手当金は支給されません。
ただし、休業補償給付の日額が傷病手当金の日額より少ないときは、その差額が支給されます。
4.健康保険制度間での併給調整【出産手当金】
同一の保険制度となる健康保険制度間での併給調整の対象となるのは、出産手当金です。
出産手当金は、産前・産後休業の期間中、1日につき、原則として月給の3分の2相当額が支給されます。
🔎 出産で会社を休んだとき|協会けんぽ
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3290/r148/
傷病手当金の額が出産手当金の額よりも少なければ、傷病手当金は支給されず、傷病手当金の額が出産手当金の額よりも多ければ、その差額が支給されます(健康保険法第103条第1項)。
5.雇用保険制度の失業手当申請による支給停止
資格喪失後(退職後)の傷病手当金の継続給付を受けている人に限りますが、失業手当の申請=傷病手当金の支給停止事由に該当することとなります。
失業手当の支給要件の一つは、「労働の意思・能力を有するにもかかわらず就職不能」であることです。
傷病手当金の要件である「療養のため労務に服することができないとき」に該当しないこととなりますので、傷病手当金は支給されません。
以上
written by sharoshi-tsutomu