2023年1月20日、厚生労働省は令和5年度の年金額改定を公表しました。
2023度の年金額の改定は、新規裁定者は前年度から2.2%の引き上げ、既裁定者は前年度から1.9%の引き上げとなりました。
年金額は毎年度改定され、6月(4月分と5月分)から、改定後の年金額が支給されます。
年金額改定の仕組みを理解するポイントは、3つのスライドです。
今回は、年金額改定の仕組みのポイントとなる3つのスライドと、新規規裁定者と既裁定者の2つの改定率の算定方法について確認します。
1.3つのスライド
年金額は3つのスライドを用いることで改定(増減)されます。
3つのスライドは、賃金スライド、物価スライド、マクロ経済スライドです。
賃金スライドは現役世代との負担の公平性の観点から、物価スライドは年金受給者の生活費との連動性の観点から、そして、マクロ経済スライドは年金制度の持続性の観点から用いられます。
1-1.賃金スライド(名目手取り賃金変動率)
賃金スライドに用いるのは「名目手取り賃金変動率」です。
「名目手取り賃金変動率」とは、2年度前から4年度前までの3年度平均の「実質賃金変動率」と、前年の「物価変動率」と、3年度前の「可処分所得割合変化率」を乗じた率です。
「実質賃金変動率」は、厚生年金の保険料や年金で使用される標準報酬(標準報酬月額と標準賞与額の計)の平均値を各年の物価上昇率で除した実質的な賃金の変動率です。
「可処分所得割合変化率」は、厚生年金保険料率の引上げに伴う可処分所得の変化率です。
厚生年金保険料率は18.3%(労使折半)で固定されていますので、今後は変化しません。
「物価変動率」は、次の1-2で、詳細を確認しましょう。
1-2.物価スライド(物価変動率)
物価スライドに用いるのは「物価変動率」です。
「物価変動率」は、年金額の改定年度の前年の年平均の全国の「消費者物価指数」の変動率です。
「消費者物価指数 」は、全国の世帯が購入する家計に係る財(モノ)とサービスの価格等を総合した指標で、総務省から毎月公表されています。
1-3.マクロ経済スライド(スライド調整率)
マクロ経済スライドは、少子高齢化の進展により、将来の現役世代の過重な負担を回避するという観点から、平成16年の年金制度の改正により、導入されました。
🔎 マクロ経済スライド |日本年金機構
具体的な指標としては、現役人口の減少(負担力低下)と平均余命の伸び(給付増大)を勘案した「スライド調整率」により、給付水準を調整する仕組みとなっています。
「スライド調整率」を式で表すと、以下です。
マクロ経済スライドは、常に発動されるわけではありません。
マクロ経済スライドの発動には、名目下限措置という条件があります。
名目下限措置とは、スライド調整率適用後の実際の年金額の改定率の下限値は0%(ゼロ)とする措置です。
名目下限措置により実際の年金額の改定率に適用できなかった「未調整分のスライド調整率」を翌年度以降に繰り越す制度を「キャリーオーバー制度」といい、2018年4月から導入されています。
🔎 マクロ経済スライドのキャリーオーバー制度とは何ですか。 |日本年金機構
2023度の年金額の改定でも、キャリーオーバー制度により繰越された未調整分▲0.3%が適用されました。
なお、マクロ経済スライドによる調整は、5年ごとに行われる財政検証において、年金財政が長期にわたって均衡すると見込まれるまで行われます。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成29年推計)」によると、65歳以上の高齢者人口は、団塊ジュニアが65歳以上となる2042年に3935万人でピークを迎えると推計されています。
また、同推計では、人口に占める65歳以上の割合は、2036年には33.3%(3人に1人)、2065年には38.4%(2.6人に1人)となるとしています。
マクロ経済スライドによる調整期間は、当分の間、続くでしょう。
2.2つの改定率
年金額は、改定率(再評価率)を変動させ、年金額を増減させる仕組みです。
🔎 年金額はどのようなルールで改定されるのですか。 |日本年金機構
改定率の算出方法は、新規裁定者と既裁定者により異なります。
新規裁定者は年金を受給し始める人、既裁定者は年金を受給している人のことです。
それぞれの改定率の算出プロセスを、2023年度の年金額の改定率を具体例として、確認しましょう。
2-1.新規裁定者(67歳以下)
新規裁定者の本来の年金額の改定は、直近の賃金の動向を反映させるため、「名目手取り賃金変動率」により改定されます。
「名目手取り賃金変動率」に、マクロ経済スライドの「スライド調整率」と、キャリーオーバーした「未調整分のスライド調整率」を勘案した改定率が、新規裁定者の実質の改定率となります。
2023年度の新規裁定者の改定率を具体的に確認しましょう。
参照する値は、以下です。
①名目手取り賃金変動率 2.8%
実質賃金変動率1.0003 (2019~2021年度の平均0.3%)×物価変動率1.0025 (2022年2.5%)×可処分所得割合変化率1.0000 (2022年度0.0%)=1.0028(2.8%)
②スライド調整率 ▲0.3%
③未調整分のスライド調整率(キャリーオーバー分) ▲0.3%
結果、新規裁定者の改定率は、①2.8%+②▲0.3%+③▲0.3%=2.2%となります。
2-2.既裁定者(68歳以上)
既裁定者の本来の年金額の改定は、原則は、「物価変動率」により改定されますが、例外として、賃金変動率が物価変動率より低い場合は、新規裁定者と同様に、「名目手取り賃金変動率」により改定されます。
2023年度の年金額の改定に用いる「物価変動率」は2.5%、「名目手取り賃金変動率」は2.8%ですので、「物価変動率」<「名目手取り賃金変動率」となるため、「物価変動率」が本来の年金額の改定に用いる値となります。
2023年度改定においては、「物価変動率」に、マクロ経済スライドの「スライド調整率」と、キャリーオーバーした「未調整分のスライド調整率」を勘案した改定率が、既裁定者の実質の改定率となります。
2023年度の既裁定者の改定率を具体的に確認しましょう。
①名目手取り賃金変動率 2.8%
②物価変動率 2.5% ← ①>②なので②を使用
③スライド調整率 ▲0.3%
④未調整分のスライド調整率(キャリーオーバー分) ▲0.3%
結果、既裁定者の改定率は、②2.5%+③▲0.3%+④▲0.3%=1.9%となります。
最後にまとめ。
・年金額の改定は、賃金・物価・マクロ経済の3つのスライドを用いて改定される。
・新規裁定者と既裁定者で改定率決定のプロセスは異なる。
・マクロ経済スライドのスライド調整率を翌年度以降に繰り越すことをキャリーオーバーという。
以上
written by sharoshi-tsutomu