年4回賞与で保険料大幅減?賞与に係る報酬の該当要件と実務対応

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賞与とは「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもののうち、三月を超える期間ごとに受けるものをいう」と定義されています(健保法第3条・厚年法第3条)。

ポイントは、3か月を超える期間ごとに受けるものを「賞与」として取り扱うことです。

よって、年4回以上の賞与で所定の要件を満たす場合は、標準報酬月額の対象となる「報酬」とされ、標準賞与額の対象となる「賞与」とはされません。

賞与では、社会保険料は賦課されないこととなります。

今回は、年4回賞与の社会保険料の軽減効果、賞与に係る報酬の該当要件、局面別の実務対応の3点について確認します。

1.社会保険料の軽減効果

毎月の給与で適用される標準報酬月額の上限は、健康保険法では139万円、厚生年金保険法では65万円とされています(健保法第40条・厚年法第20条)(令和2年政令第246号)。

年4回以上の賞与の支給が「賞与」ではなく「報酬」とされる場合、年間の賞与支給総額の12分の1の額を「賞与に係る報酬」として、標準報酬月額の算定基礎に含めることとなります。

そのため標準賞与額は対象外となり、賞与での社会保険料の賦課されません。

標準報酬月額が139万円を超える高所得者であれば「賞与に係る報酬」の額を標準報酬月額の算定基礎に含めても、そもそも上限に達しているため、賞与分の社会保険料は全て軽減されることとなります。

例えば、健康保険標準報酬月額139万円、年間賞与支給額420万円(1回105万×4回)、40歳で、協会けんぽ(東京)の場合の本人の軽減効果は、以下です。

・健康保険料 420万円×5%(2023年度)=210,000円

・介護保険料 420万円×0.91%(2023年度)=38,220円

・厚生年金保険料 420万円×9.15%(2023年度)=384,300円

⇒ 計:632,000円。

本人負担の社会保険料は約60万円も軽減されました。

会社負担の社会保険料も賦課されませんので、会社としても軽減効果を得ることができます。

留意点は、賞与での厚生年金保険料の負担がなくなることで、将来の年金額は減額となる点です。

2.賞与に係る報酬の該当要件

年4回賞与が「報酬」に該当する場合、賞与の支給額は「賞与に係る報酬」として標準報酬月額の算定基礎に含めることとなります。

原則の該当要件と、除外要件を確認します。

(1)原則の該当要件

原則の該当要件としては、以下の①・②のいずれかを満たすことが必要です。

……原則①……

賞与の支給が、給与規定、賃金協約等の諸規定によって年間を通じ4回以上の支給につき客観的に定められているとき。

……原則②……

賞与の支給が7月1日前の1年間を通じ4回以上行われているとき。

(2)除外要件

原則の該当要件を満たす場合であっても、以下の①~③の除外要件に該当する場合は認められません。

……除外①……

年4回賞与が同一の性質を有すると認められないとき。

……除外②……

例外的に賞与が分割支給されたとき。(分割分はまとめて1回として取扱いされます)

……除外③……

当該年に限り支給されたことが明らかなとき。(例外的に賞与が分割支給されたときは支給回数に算入されません)

除外要件については通達で用語の解釈を確認します。

まず、除外①の「性質の同一性」です。

定期賞与として夏季と冬季で年2回(算定期間は6か月)、インセンティブとしての賞与が年1回(算定期間は12か月)支給されている会社が、インセテンティブ賞与を年2回支給とした場合であっても、定期賞与とインセンティブ賞与は性質が異なりますので、いわゆる年4回賞与には該当しません。

厚生労働省は事業主から支給される諸手当が、「通常の報酬」・「賞与に係る報酬」又は「賞与」に該当するかの基準の明確化を目的とし、平成30年7月30日に「「健康保険法及び厚生年金保険法における賞与に係る報酬の取扱いについて」 の一部改正について」を発出しました。平成31年1月4日より適用されています。

本通達では、「通常の報酬」、「賞与に係る報酬」及び「賞与」は、名称の如何にかかわらず、二以上の異なる性質を有するものであることが諸規定又は賃金台帳等から明らかな場合には、同一の性質を有すると認められるもの毎に判別するものであること。――とされています。

性質の同一性については、日本年金機構のページに事例が記載されたQ&A(「健康保険法及び厚生年金保険法における賞与に係る報酬の取扱いについて」の一部改正について」に関するQ&A)も掲載されています。あわせて確認しましょう。

🔎 【事業主の皆様へ】報酬・賞与の区分が明確化されます|日本年金機構

https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2018/20181023.html

次は、除外②の「分割支給」です。

通達では、「例外的に賞与が分割支給された場合」とは、事業主のやむを得ない事情等のため、諸規定又は慣例によらず賞与が分割支給されたときをいうものであること。――とされています。

最後に、除外③の「当年限りの支給」です。

通達では、「当該年に限り支給されたことが明らかな賞与」とは、過去数年にわたって支給されたことがなく、諸規定又は慣例から判断して、当該年に限り特別に支給された賞与をいうものであること。――とされています。

「賞与に係る報酬」に該当させるには、同一性質のものを年4回支給していることを明らかとするため、諸規定に定めることがよいでしょう。

3.局面別の実務対応

年4回賞与が「賞与に係る報酬」に該当する場合の局面別の実務対応を確認しましょう。

(1)定時決定(算定)における賞与に係る報酬額の取扱い

7月1日前の1年間に受けた賞与の額を12で除して得た額を「賞与に係る報酬」として標準報酬月額に加算することとなります。

🔎 定時決定|日本年金機構

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/20121017.html

(2)随時改定(月変)における賞与に係る報酬額の取扱い

固定的賃金に変動があり、随時改定を行う場合は、直近の定時決定で算定した「賞与に係る報酬」の額を変更後の「通常の報酬」の額に加算することとなります。

随時改定の留意点としては、5月適用の随時改定の4月分、6月適用の随時改定の4・5月分は、前年の定時決定に加算した「賞与に係る報酬」を加算しますが、7月適用の随時改定は算定期間と同期間での改定となりますので、4月分・5月分も、新たな「賞与に係る報酬」を加算することとなります。

🔎 随時改定|日本年金機構

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/20150515-02.html

(3)入社時の資格取得時決定の賞与に係る報酬額の取扱い

資格取得時における「賞与に係る報酬」の額は、当該事業所において、同様の業務に従事し、同様の賞与を受ける者の「賞与に係る報酬」の平均額を、資格取得者の「通常の報酬額」に加算することとなります。

🔎 資格取得時の決定|日本年金機構

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/20120330.html

(4)新たに賞与の支給回数を年4回とすることとした場合の賞与に係る報酬額の取扱い

新たに賞与の支給回数を年4回と諸規定に定めた場合であっても、次期の定時決定で「賞与に係る報酬」の額が標準報酬月額に加算され適用されるまでの間は、「賞与」として取り扱い、賞与支払届を都度提出する必要があります。

日本年金機構のお知らせ(2023年6月13日更新)でも、賞与にかかる諸規定を新設した場合の取り扱いが明確に示されています。

諸規定の変更後、最初の定時決定の際に加算する「賞与に係る報酬額」は、支給実績から、諸規定による諸手当等の支給回数等の支給条件であったとすれば7月1日前1年間に受けたであろう賞与の額を算定し、その額を12で除して得た額となります。

🔎 従業員に賞与を支給したときの手続き|日本年金機構

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/20141203.html


今回のおさらい。

・年4回以上の賞与を支給する場合で、所定の条件を満たすときは、その賞与は「報酬」に該当する。

・年4回以上の賞与が「報酬」に該当する場合は「賞与に係る報酬」として、定時決定時の標準報酬月額の算定基礎に含める。

・年4回以上の賞与が「報酬」に該当すれば、賞与での保険料賦課はされず、高所得者であれば保険料の軽減効果を得られる。

以上

written by sharoshi-tsutomu

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