1円で株が買える?1円ストックオプションの税務と労務の取扱い

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015_1円で株が買える?1円ストックオプションの税務と労務の取扱い
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ストックオプション(stock option)とは、会社が役職員に対し自社株(stock)を一定額で購入できる権利(option)を与える制度です。

報酬を株式(自社株)で与える制度と理解しましょう。

その中で行使価額が1円に設定されたストックオプションが「1円ストックオプション」です。

今回は1円ストックオプションの税務と労務の取扱いについてご案内します。

1.1円ストックオプションの仕組み

はじめに1円ストックオプションの仕組みを3つの局面で理解しましょう。

①権利付与

株式購入権(stock option)は会社から役職員へ「無償」で付与されます。

②権利行使

権利行使価額は新株予約権1個あたり「1円」です。

行使価額が1円のため「1円ストックオプション」とよばれます。

役職員は権利行使することで株式を取得します。

株式取得時に役職員に発生した経済的利益(給与所得)に対し課税がされます。

③株式売却

取得した株式を役職員は市場で売却することで、初めて金銭を得ることとなります。

株式売却時の株価が権利行使時の株価より高ければ、売却益が譲渡所得として課税されます。

2.1円ストックオプションの税務

ストックオプションは、税務上は税制適格と税制非適格の2種類にわけられます。

税制適格のストックオプションの場合は譲渡時にのみ課税(譲渡所得)され、権利行使時(給与所得)には課税がされません。

いわゆる課税繰延となる優遇措置があります。

一方で、税制非適格のストックオプションの場合は、「権利行使」時にも給与所得として課税がされます。

よって、源泉徴収義務者である会社は、源泉徴収が必要となります。

1円ストックオプションは税制適格要件の「権利行使価額がストックオプション付与時の時価以上であること」を満たさないため、税制適格となります。

それでは、1円ストックオプションの権利行使時の課税処理を実例で確認しましょう。

~例~

①権利行使代金 
新株予約権1個当たり1円(新株予約権1個当たりの株数は100株とします。)

②権利行使価額
1株1,001円(権利行使日の価額。上場会社の場合は権利行使日の終値。)

③権利行使株数
100株

④課税対象額
(1,001円②×100株③)-(1円①)=100,099円

⑤所得税率
権利行使日の属する月の賞与扱いで所得税率を算出します。
前月課税対象額が55万円、扶養親族0人を例とすると所得税率は18.378%(2019年源泉徴収税額表参照)です。

⑥所得税額
100,099円④×18.378%⑤(例の場合)=18,561円

ここで問題となるのが権利行使をしたことで役職員が得たものは株式であり、金銭ではないということです。

賞与扱いで所得税額を算出しても実際に賞与が発生したわけではありませんので、所得税を控除することができません。

よって、賞与扱いで算出した所得税額は、同月の給与より控除することとなります。

所得税の納付期限(翌月10日)も同月であれば同一となりますので、給与から控除することで差し支えありません。

🔎 権利行使価格が1円である新株予約権(ストックオプション)を 付与された場合の税務上の取扱いについて|国税庁https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/shotoku/03/02.htm

なお、ストックオプションの行使者が非居住者である場合は、国内勤務期間にかかる部分に対し国内源泉所得として非居住者課税(20.42%)が必要です。

  ▼

🔎 ストックオプションに係る国内源泉所得の範囲|国税庁 http://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/06/48.htm

非居住者課税をした場合は「非居住者の支払調書」の作成も必要です。

  ▼

🔎 非居住者等に支払われる給与、報酬、年金及び賞金の支払調書(同合計表)|国税庁http://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/23100049.htm

権利行使者が退職者である場合は、退職所得として課税されます。

  ▼

🔎 権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について|国税庁
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/gensen/07/02.htm

3.1円ストックオプションの労務

ストックオプションで得られる利益は、発生する時期及び額ともに労働者の判断に委ねられているため、労働の対償ではなく、労働基準法第11条の賃金には当たりません。

(労働基準法との関係)
改正商法によるストック・オプション制度では、権利付与を受けた労働者が権利行使を行うか否か、また権利行使するとした場合において、その時期や株式売却時期をいつにするかを労働者が決定するものとしていることから、この制度から得られる利益は、それが発生する時期及び額ともに労働者の判断に委ねられているため、労働の対償ではなく、労働基準法第11条の賃金には当たらないものである
したがって、改正商法によるストック・オプションの付与、行使等に当たり、それを就業規則等に予め定められた賃金の一部として取り扱うことは、労働基準法第24条に違反するものである。
なお、改正商法によるストック・オプション制度から得られる利益は、労働基準法第11条に規定する賃金ではないが、労働者に付与されるストック・オプションは労働条件の一部であり、また、労働者に対して当該制度を創設した場合、労働基準法第89条第1項第10号の適用を受けるものである。
~平成9年6月1日付基発第412号~

また、社会保険関連法においても、労働基準法の賃金の取扱いと同様に、労務の対象でないことから、社会保険報酬額としては取り扱わないこととなります(平成13年6月5日 事務連絡)。


最後におさらい。

・1円ストックオプションは、税制非適格に分類される。

・税制非適格のストックオプションは、権利行使時に給与所得として課税される。

・給与所得としての課税方法は、権利行使月の賞与扱いで課税する。

・賞与扱いで算出した所得税は、同月の給与で権利行使者より控除する。

・ストックオプションは労働関連法上の賃金、社会保険関連法上の報酬には該当しない。

以上

written by sharoshi-tsutomu

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