総務省公表の労働力調査(2019年)によると、60歳~64歳の就業率は70.3%、65歳~69歳の就業率は48.4%。
20年前の2000年は60歳~64歳の就業率は50%でしたが、65歳までの高年齢者雇用確保措置(義務)により就業率は大きく伸長しました。
2021年4月1日には改正高年齢雇用安定法が施行され、新たに70歳までの高年齢者就業確保措置(努力義務)が事業主に課されることから、65歳~69歳の就業率の伸長が想定されます。
70歳雇用時代が到来し、何歳まで働くかを各人が選択できる時代となりました。
今回は、退職時の年齢が65歳を境にしてかわる雇用保険の失業給付の仕組みを理解するとともに、制度の違いにより生ずる受給額の違いについても確認することとします。
1.65歳未満(基本手当)
初めに、65歳未満で退職した場合に受給できる「基本手当」の受給要件と受給額について確認しましょう。
1-1.基本手当とは
基本手当とは、雇用保険の一般被保険者に対する求職者給付として、所定給付日数に応じて支給されるものです。
基本手当を受給するには、原則として4週間(28日)に1回、ハローワークが指定した日(失業認定日)に失業の状態であった(ある)ことを申告し、失業の認定を受けることが必要です。
失業の認定を受けると、失業の認定を受けた日数分の基本手当が支給されます。
1-2.基本手当の受給要件
労働の意思及び能力を有するにもかかわらず職業に就くことのできない状態にある場合で、算定対象期間に被保険者期間が通算して12か月以上であったときに基本手当を受給することができます。
被保険者期間は、雇用保険の被保険者であった期間のうち、離職日から1か月ごとに区切っていった期間に賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月を1か月と計算します。
算定対象期間は、原則として、離職の日以前2年間です(受給要件の緩和に該当する場合は算定対象期間の延長措置有り)。
なお、受給資格に係る離職理由が特定理由離職者又は特定受給資格者に該当する場合は、離職の日以前の2年間に被保険者期間が12か月以上ないときは、離職の日以前1年間に被保険者期間が6か月以上であれば基本手当の受給することができます。
特定理由離職者又は特定受給資格者の範囲は、以下のサイトで確認しましょう。
🔎 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要|ハローワークインターネットサービス
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_range.html
1-3.基本手当の受給額
基本手当の受給額は、「基本手当日額」に「所定給付日数」を乗じた額です。
「基本手当日額」とは、失業給付の1日当たりの金額で、離職した日の直前の6か月に毎月きまって支払われた賃金(いわゆる給与)の合計を180で除した額(=賃金日額)に年齢区分に応じた給付率を乗じた額です。
60歳~64歳の給付率は45~80%となっており、賃金が低いほど高い率が適用されます。
なお、基本手当日額には上限額が設定されており、60歳~64歳の上限額は7,186円(2020年8月1日現在)です。
「所定給付日数」は、算定基礎期間や離職理由により日数が異なります。
🔎 基本手当の所定給付日数|ハローワークインターネットサービス
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_benefitdays.html
基本手当の受給期間は、原則として受給資格に係る離職の日の翌日から起算して1年間となります。
🔎 年金と雇用保険の失業給付との調整|日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/koyou-chosei/20140421-03.html
2.65歳以上(高年齢求職者給付金)
次に、65歳以上で退職した場合に受給できる「高年齢者求職者給付金」の受給要件と受給額について確認しましょう。
65歳になると雇用保険制度上の被保険者区分は、一般被保険者から高年齢被保険者に自動的に変更となります。
2-1.高年齢求職者給付金とは
高年齢求職者給付金とは、高年齢受給資格者に対する求職者給付として支給される一時金です。
一時金として一括で支給されますので、基本手当と異なり、失業している日数に応じて支給されるものではありません。
失業認定日に失業の状態にあればよく、翌日から就職したとしても返還する必要もありません。
2-2.高年齢求職者給付金の受給要件
高年齢被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず職業に就くことができない状態にある場合で、算定対象期間に被保険者期間が6か月以上であったときに高年齢求職者給付金を受給することができます。
算定対象期間は、原則として離職の日以前1年間です(受給要件の緩和に該当する場合は算定対象期間の延長措置有り)。
2-3.高年齢求職者給付金の受給額
高年齢求職者給付金の受給額は、「基本手当日額」に「所定給付日数」を乗じた額となります。
「基本手当日額」に用いる給付率と上限額は、受給資格に係る離職の日において30歳未満である一般の受給資格者と同様の給付率と上限額が適用されます。
「所定給付日数」は、算定基礎期間が1年未満であれば30日分、算定基礎期間が1年以上であれば50日分が支給されます。
高年齢求職者給付金の受給期限は、高年齢受給資格に係る離職の日の翌日から起算して1年を経過する日となり、当該1年間に疾病又は負傷等により職業に就くことができない期間があっても受給期限の延長は認められません。
また、「基本手当」とは異なり、年金との併給調整は行われません。
3.基本手当と高年齢求職者給付金の違い
基本手当と高年齢求職者給付金の制度と受給額の違いについて確認しましょう。
3-1.制度の違い
・受給対象者が違います。
基本手当は「一般被保険者」に対して支給される失業給付、高年齢求職者給付金は「高年齢被保険者」に対して支給される失業給付です。
被保険者の年齢が65歳に到達すると一般被保険者は高年齢被保険者に自動的に区分変更となります。
・年金との併給調整の取扱いが違います。
基本手当は年金との併給調整により年金の支給が停止されますが、高年齢求職者給付金は一時金となりますので、年金と併給調整はされません。
3-2.受給額の違い
毎月の給与が30万円で勤続20年以上の者が自己都合退職した場合で試算します。
退職時年齢が64歳で基本手当を受給する場合(①)と、退職時年齢が65歳で高年齢求職者給付金を受給する場合(②)で受給額を比較します。
①退職年齢64歳(基本手当を受給)
・基本手当日額 4,956円
・所定給付日数 150日
→受給総額 743,400円
②退職年齢65歳(高年齢求職者給付金を受給)
・基本手当日額 5,974円
・所定給付日数 50日
→受給総額 298,700円
差額は、743,400円(①)-298,700円(②)=444,700円
約45万円も違います。
最後にまとめ。
・雇用保険の失業給付は、退職時の年齢が64歳までは「基本手当」、65歳以降は「高年齢求職者給付金」が支給される。
・「基本手当」は年金との併給調整の対象となるが、「高年齢求職者給付金」は年金との併給調整の対象とはならない。
・64歳11か月までの退職と65歳到達後の退職では、雇用保険の失業給付額には大きな差が生ずる。
以上
written by suchika-hakaru