総務省公表の労働力調査(2022年)によると、60歳~64歳の就業率は73.0%、65歳~69歳の就業率は50.8%。
20年前の2000年は60歳~64歳の就業率は50%でしたが、65歳までの高年齢者雇用確保措置(義務)により就業率は大きく伸長しました。
調査結果からも、60歳時点では働く人が多数ですが、65歳を超えると就業率は約5割に低減します。
65歳は、原則の年金受給の開始年齢であり、介護保険も第一号被保険者として年金からの天引きに変更となる節目の年齢です。
そして、雇用保険の失業給付制度も、65歳を分岐点として、給付金の種類が変わります。
65歳前は「基本手当(失業手当)」、65歳以降は「高年齢求職者給付金(一時金)」となります。
64歳11か月での退職と、65歳での退職では、給付金の種類が異なることにより、受給額も大きな差が生じます。
今回は、65歳が分岐点となる雇用保険の失業給付制度と受給額の違いについて確認します。
1.65歳未満(基本手当)
はじめに、65歳未満が受給できる「基本手当」の受給要件と受給額について確認します。
1-1.基本手当とは
基本手当とは、雇用保険の一般被保険者に対する求職者給付として、所定給付日数に応じて支給されるものです。
基本手当を受給するには、原則として4週間(28日)に1回、ハローワークが指定した日(失業認定日)に失業の状態であった(ある)ことを申告し、失業の認定を受けることが必要です。
失業の認定を受けると、失業の認定を受けた日数分の基本手当が支給されます。
1-2.基本手当の受給要件
労働の意思及び能力を有するにもかかわらず職業に就くことのできない状態にある場合で、算定対象期間に被保険者期間が通算して12か月以上であったときに基本手当を受給することができます。
被保険者期間は、雇用保険の被保険者であった期間のうち、離職日から1か月ごとに区切っていった期間に賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月を1か月と計算します。
算定対象期間は、原則として、離職の日以前2年間です(受給要件の緩和に該当する場合は算定対象期間の延長措置有り)。
なお、受給資格に係る離職理由が特定理由離職者又は特定受給資格者に該当する場合は、離職の日以前の2年間に被保険者期間が12か月以上ないときは、離職の日以前1年間に被保険者期間が6か月以上であれば基本手当が受給可能です。
特定理由離職者又は特定受給資格者の範囲は、以下のサイトで確認しましょう。
🔎 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要|ハローワークインターネットサービスhttps://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_range.html
1-3.基本手当の受給額
基本手当の受給額は、「基本手当日額」に「所定給付日数」を乗じた額です。
「基本手当日額」とは、失業給付の1日当たりの金額で、離職した日の直前の6か月に毎月きまって支払われた賃金(いわゆる給与)の合計を180で除した額(=賃金日額)に年齢区分に応じた給付率を乗じた額です。
60歳~64歳の給付率は45~80%となっており、賃金が低いほど高い率が適用されます。
なお、基本手当日額には上限額が設定されており、60歳~64歳の上限額は7,294円(2023年8月1日現在)です。
「所定給付日数」は、算定基礎期間や離職理由により日数が異なります。
🔎 基本手当の所定給付日数|ハローワークインターネットサービスhttps://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_benefitdays.html
基本手当の受給期間は、原則として受給資格に係る離職の日の翌日から起算して1年間となります。
なお、年金との併給調整の制度も紹介します。
65歳になるまでの老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金を含みます)は、ハローワークで求職の申込みをしたときは、実際に基本手当(失業給付)を受けたかどうかに関係なく、一定のあいだ加給年金額も含めて年金の全額が支給停止されます。
🔎 年金と雇用保険の失業給付との調整|日本年金機構https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/koyou-chosei/20140421-03.html
2.65歳以上(高年齢求職者給付金)
つぎに、65歳以上で退職した場合に受給できる「高年齢者求職者給付金」の受給要件と受給額について確認しましょう。
65歳になると雇用保険制度上の被保険者区分は、一般被保険者から高年齢被保険者に自動的に変更となります。
2-1.高年齢求職者給付金とは
高年齢求職者給付金とは、高年齢受給資格者に対する求職者給付として支給される一時金です。
一時金として一括で支給されますので、基本手当と異なり、失業している日数に応じて支給されるものではありません。
失業認定日に失業の状態にあればよく、翌日から就職したとしても返還する必要もありません。
2-2.高年齢求職者給付金の受給要件
高年齢被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず職業に就くことができない状態にある場合で、算定対象期間に被保険者期間が6か月以上であったときに高年齢求職者給付金を受給することができます。
算定対象期間は、原則として離職の日以前1年間です(受給要件の緩和に該当する場合は算定対象期間の延長措置有り)。
2-3.高年齢求職者給付金の受給額
高年齢求職者給付金の受給額は、「基本手当日額」に「所定給付日数」を乗じた額となります。
「基本手当日額」に用いる給付率と上限額は、受給資格に係る離職の日において30歳未満である一般の受給資格者と同様の給付率と上限額が適用されます。
「所定給付日数」は、算定基礎期間が1年未満であれば30日分、算定基礎期間が1年以上であれば50日分が支給されます。
高年齢求職者給付金の受給期限は、高年齢受給資格に係る離職の日の翌日から起算して1年を経過する日となり、当該1年間に疾病又は負傷等により職業に就くことができない期間があっても受給期限の延長は認められません。
また、「基本手当」とは異なり、年金との併給調整は行われません。
3.基本手当と高年齢求職者給付金の違い
さいごに、「基本手当」と「高年齢求職者給付金」の制度と受給額の違いのまとめです。
3-1.制度の違い
・受給対象者が違います。
基本手当は「一般被保険者」に対して支給される失業給付、高年齢求職者給付金は「高年齢被保険者」に対して支給される失業給付です。
被保険者の年齢が65歳に到達すると一般被保険者は高年齢被保険者に自動的に区分変更となります。
・年金との併給調整の取扱いが違います。
基本手当は年金との併給調整により年金の支給が停止されますが、高年齢求職者給付金は一時金となりますので、年金と併給調整はされません。
3-2.受給額の違い
毎月の給与が30万円で勤続20年以上の人が自己都合退職した場合で試算します。
退職時年齢が64歳で基本手当を受給する場合(①)と、退職時年齢が65歳で高年齢求職者給付金を受給する場合(②)で受給額を比較します。
①退職年齢64歳 (基本手当) | ②退職年齢65歳 (高年齢求職者給付金) | |
毎月の給与の額 | 300,000円 | 300,000円 |
勤続年数 | 20年以上 | 20年以上 |
退職理由 | 自己都合 | 自己都合 |
基本手当日額 | 5,020円 | 6,036円 |
所定給付日数 | 150日 | 50日 |
受給(総)額 | 753,000円 | 301,800円 |
受給額の差額としては、753,000円(①)-301,800円(②)=451,200円
約45万円も違います。
最後にまとめ。
・雇用保険の失業給付は、退職時の年齢が64歳までは「基本手当」、65歳以降は「高年齢求職者給付金」が支給される。
・「基本手当」は年金との併給調整の対象となるが、「高年齢求職者給付金」は年金との併給調整の対象とはならない。
・64歳11か月までの退職と65歳到達後の退職では、雇用保険の失業給付額には大きな差が生ずる。
以上
written by suchika-hakaru