所得代替率は50%が下限?年金制度の給付水準の現在と将来の見通し

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所得代替率とは、年金受給開始(65歳)時の年金額が、現役世代の手取り収入額(賞与含む)と比較して、どのくらいの割合かを表す指標です。

つまり、年金で現役時代のどのくらいの生活水準を維持できるかを示す「ものさし」です。

年金受給者にとっては、所得代替率が高ければ高いほど、年金で豊かな暮らしが維持できます。

一方で、所得代替率が低下すると、年金だけでの生活維持は困難となり、自助努力が必要です。

いわゆる「老後2,000万円問題」です(金融庁2019年報告)。

所得代替率に、話しを戻します。

厚生労働省は、2024年7月3日に、年金制度の財政検証の結果を公表しました。

財政検証とは、公的年金制度の財政状況を定期的(5年ごと)に点検し、将来の年金給付水準の見通しを示すための仕組みで、別名、「年金制度の健康診断」と呼ばれます。

■2024年度の所得代替率は61.2%――

2024年度の所得代替率は「61.2%」です。

2019年度は61.7%でしたので、若干低下しています。

現在は、現役世代の約6割の収入に相当する年金はもらえる状態です。

具体的な金額を図で、確認します。

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現役男子の手取り収入額(賞与含む)とは、公租公課を除いた額。

公租とは所得税・住民税の税金、公課とは社会保険料等の税金以外の負担金のことです。

そして現役世帯と比較する年金世帯は、いわゆる「モデル世帯」です。

モデル世帯とは、平均収入で40年間働いた夫と40年間専業主婦だった妻の世帯のこと。

妻は専業主婦なので厚生年金の受給は「ない」前提となります。

■所得代替率は50.0%を上回ることが約束――

所得代替率は、国民年金法等の一部を改正する法律(平成16年6月11日法律第104号)により、「50%」を上回ることとされています。

国民年金法による年金たる給付及び厚生年金保険法による年金たる保険給付については、第一号に掲げる額と第二号に掲げる額とを合算して得た額の第三号に掲げる額に対する比率が百分の五十を上回ることとなるような給付水準を将来にわたり確保するものとする。

財政検証では、今後100年という長い期間にわたり、この50%の水準が維持できるかを「人口」・「労働力」・「経済」の複数の前提をおいて検証されます。

2024年度の財政検証での諸前提を確認します。

人口の前提は、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(2023年4月)」より、出生率(高位・中位・低位)、死亡率(高位・中位・低位)、入国超過数(25万人、16.4万人、6.9万人)の3つの数値。

労働力の前提は、独立行政法人労働政策研究・研修機構の「労働力需給の推計(2024年3月)」より、①労働参加進展シナリオ、②労働参加漸進シナリオ、③労働参加現状シナリオの3つのシナリオ。

経済の前提は、社会保障審議会年金部会の「年金財政における経済前提に関する専門委員会」で設定(2024年4月)した、①高成長実現ケース、②成長型経済移行・継続ケース、③過去30年投影ケース ④1人当たりゼロ成長ケースの4つのケース。

将来は不確実ですから、諸前提は多岐にわたります。

難解なので、理解することまでは省略して、次に進みます。

■経済が低成長でも将来の所得代替率は50.4%を維持――

2024年度の財政検証の結論としては、経済前提が過去30年投影のケースでも、マクロ経済スライドの調整が終了する2057年度の所得代替率は「50.4%」を維持できる結果となりました。

61.2%から50.4%ですと1割減のように思いますが、実質は2割減です。

また、1人当たりの実質経済成長率がゼロ(1人当たりゼロ成長ケース)で、労働力も現状(2022年)から進まない場合は、機械的に給付水準調整を続けると、国民年金は2059年度に積立金がなくなり完全な賦課方式に移行する見通しも示されています。

その場合、保険料と国庫負担で賄うことのできる給付水準は、所得代替率「37%」~「33%」程度と推定。

つまり、年金の積立金が枯渇してしまったら、50%維持ができない可能性はあるということ。


最後にまとめ。

・所得代替率とは、年金世帯の年金が、現役世帯の収入と比較して、何割もらえるかの指標。

・所得代替率は、高ければ高いほど、年金世帯は年金で豊かな老後を過ごせるということ。

・所得代替率の下限は50%だが、50%では生活が苦しいので、自助努力は必須。

以上

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